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この面子は、おれを殺すために?

 丘の頂上は、さほどひろくない。しかも、さえぎるものがなにもない。


 つまり俊冬と俊春は、とっくの昔におれたちがきたことに気がついているってわけである。


 とはいえ、かれらのことである。たとえおれたちが隠れて忍びよっていたとしても、気がつくのではあるが。


 相棒が、脚許からおれをみあげている。


「ああ、そうだな。ぽちのところにいきたいよな」


 ジェラシーなんてことはないぞ。

 うん、そうだ。ジェラシーなんて、ひとっかけらもない。


 無理矢理、斎藤に負けぬほどのさわやかな笑みを相貌かおにはりつけてみた。

 相棒のまえで両膝を折り、俊春メイドの首輪から綱をはずしてやる。


 相棒は、二人のもとへさっさと駆けていってしまった。


「主計。話があるのは、おれだけではない。あいつらも、おまえに話があるそうだ」


 えっ、なんだって?


 副長からの話とはこれからのことで、それはさっきのやりとりでもうおわったのかとばかり思っていた。


 俊冬と俊春からも、さらに話があるというのか?


 めっちゃ警戒してしまう。


「ならば、わたしはおらぬほうが……」


 突然の「話があるの」っていう展開に絶賛ドキドキ中のおれの横で、斎藤がひかえめにいいかけた。


「いや、斎藤。おまえにもきいてもらいたい。あいつらも、おまえにもきいてもらいたいっていっている」

「はぁ……」


 斎藤も、さわやかな笑みをこわばらせている。


 副長や双子から、いつものおちゃらけた、もといパワハラっぽい、もといいじりいびりいじめるっぽい雰囲気とはちがうものを、斎藤も感じているにちがいない。


「おい、おまえたち。なにをもめている?いいかげん、仲良くしたらどうだ。ったくもっと素直になりやがれ、ええっ?」


 相棒は副長が怒鳴っている最中でも、俊冬と俊春のまわりをうろついている。


 それはまるで、寡黙なお父さんが兄弟喧嘩をする息子たちを無言で威圧しているかのようだ。


 二人は、その副長の怒鳴り声でぴたりと口をとじた。それから、体ごとこちらにむきなおると、副長に頭をさげる。


「ぽちが、いうことをきかぬのです」

「たまが、いうことをきいてくれぬのです」


 二人は、同時に相手の非を訴えた。


 こういうところは、さすがに息がぴったりあっている。


「いいではないか。たま、すこしはぽちのいうことをきいてやれ。ぽち、すこしはたまのいうことをききいれてやれ」


 副長は、イケメンに苦笑を浮かべて兄弟喧嘩の仲裁を試みた。


「承知」

「承知」


 なにせ副長の命令である。

 俊冬と俊春は、本当は承知していなくってもそう応じるしかない。


 それから二人は同時ににらみあい、おなじタイミングでふんと鼻を鳴らした。


 シンクロどころか、タイミングがぴったりすぎる。


 なんやかんやあっても、やっぱ双子なんだ。


「島田たちものちほどやってくる。いまのうちに、話をおえておこう」


 副長が俊冬と俊春にいうと、二人は同時にうなずいた。


 いよいよである。


 心臓の鼓動がますますはやくなっている。おれの横で、斎藤が固唾をのんだのが感じられる。


「まずは、おれからの話だ。主計、おまえのことだ」


『おまえのこと』、だって?


 もしかして、相棒の散歩係をクビになってしまうとか?解雇通知を、叩きつけられてしまうのか?


 そうだよな。最近、相棒の相棒は俊春だし、おれってば散歩係の務めすらできていない。

 それどころか、場の雰囲気をあかるくするのだって、うまくできていないかも。


 それをいうなら、笑いの一つもとれていないんじゃないのか?


 だ、だめだ……。


 心当たりがありすぎて、解雇通知を叩きつけられてもおかしくない状況ではないか。


 いやいや。よくよくかんがえれば、解雇通知ならまだマシかもしれない。


 腹斬れっていわれたら?いや、それも武士さむらいの死に方としてはまだマシである。


 ならば、だれかに殺らせる。


 ううっ……。


 そういえば、このメンバーは……。


 斎藤といい俊冬と俊春といい、いずれも暗殺はお手のものじゃないか。ついでにいうならば、暗殺じゃなくって正々堂々の斬り合いのすえに斬ってしまうっていうのも、お手のものである。


 だからこそ、このメンバーなのか?


 この三人を相手に、生き残れるなんてことはまずない。

 いますぐ地球が爆発するとか、そこまで大規模じゃなくっても、大地震で日本が沈没するとか、そんなことでもないかぎりは……。


 だ、だめだ。


 俊冬と俊春にいたっては、たとえ地球が爆発しようとも、フツーに宇宙遊泳していそうだ。


 どっちにしろ、おれは死んでしまう。


「主計。おまえ、物語りでも書いたらどうだ?」

「はい?いいえ、だめですよ、副長。いくらおれがガチの文系でも、創作活動するほどイマジネーションがわくわけではありません。それだったら、まだお笑いを目指したほうがましかも……。でも、やっぱそれもダメですね。芸の道は、剣術以上に険しいですし。創作活動にしろ芸の道にしろ、それだけで喰っていけるのは、ほんの一握りですものね」


 どんなことでも、それだけで喰っていこうと思えば大変である。そりゃぁ、この年齢としであれば、創作にしろお笑いにしろチャレンジできなくもない。


 だが、夢をみてそれを追いかけることのできる期間はわずかである。

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