じつは仲が悪かったの?
それは兎も角、俊春がいまいったことがどれだけすごいことなのか、かれ自身わかっているのだろうか。
ってか、それ以前にいくら双子であろうと、そこまでたがいをわかりあえるものなのか?
これはもう『双子の神秘』とか『双子の都市伝説』とか、そういう類のミステリーとしかたとえようがない。
っていうよりかは、これもまた奇蹟である。
おれだけではない。副長や大鳥も驚いているし、斎藤に島田に蟻通だってフツーにびっくりしまくっている。
平然としているのは、相棒くらいなものであろう。
しかし、よくかんがえてみれば、俊冬と俊春はなんやかんやといいながら、たがいを信頼しあい、理解しあっている。だからこそ、こんなミラクルな解釈をしたうえで行動ができるのではないのだろうか。
銃を準備しているとか、待機しているとか、一人で敵に向かっていくっていうところは、百歩譲って予測できたとしても、銃を撃ってくないにあてるだとか、その撃った弾丸をくないで弾き飛ばすだとかは、ちがう意味での信頼がなければ、とうていできぬはずだ。
一つ間違えば、俊春の腕がふっ飛んでいたかもしれないし、さらに悪い事態になれば、頭部にあたって死んでいたっておかしくなかったのである。
「ひ、ひどすぎる。きいたか、兼定?ぽちはとうとう、主計に死ねばよかったとまでいわれたぞ」
「ちょっ、そんなこといってませんってば。だから、よみまくらないでください。おれの心のなかは、プライベートな空間です。それを土足で踏みにじりまくらないでくださいよ」
「土足で踏みにじるだと?きいたか、兼定。ダダもれしまくっておるのに、心のなかに土足で上がりこむなと因縁までつけてきたぞ」
「なるほど。そういう策があったか。「あっ、虫が目に入ってしくじった」と、わざとわんこの眉間を撃ち抜くとか、心の臓にあてるとかすればよかったのだな」
俊春とやりとりをしていると、俊冬のつぶやきがたしかにそうきこえてきた。
相棒よ。おれより俊冬のほうがよっぽどひどいことをいってるじゃないか。
あいかわらず俊春かわいさにおれをにらみあげている相棒に、心の底から力説したくなってしまった。
「にゃんこっ!わたしが引き立て役になったからこそ、敵も味方もさしてたいしたことのない狙撃に畏怖したというのに、かようなものいいはありますまい」
「わんこっ!それはわたしの申す台詞だ。くないで弾丸を弾き飛ばす?わたしが、そうみえるよう狙撃したからではないか。それをしたり顔で中傷するとは、誠に笑止千万」
「それを申すなら、わたしだって……」
またもやはじまった。
いったい、どうしたというんだ?
ときどき喧嘩やいい合いをすることはあっても、たいていはうらやましいほど仲のいい兄弟だったのに。
いや、ちょっとまてよ。出会ってすぐの時分は、たしかにたがいを思いやる双子の兄弟っていう印象だった。が、慣れてくると、俊冬は俊春をこきつかっているし、いっぽうで俊春は従ってはいるけど不満タラタラな様子であることに気がついた。
さらには、俊冬は俊春の耳がきこえなくなったとことにより、『鍛錬をしてやる』ということになって毎夜のようにやっていた。
俊冬にすれば、俊春を前線から退けたいという想いが強すぎたのかもしれない。それにしたって、あの地獄レベルの鍛錬はどうかんがえても度がすぎまくっていた。
そして、俊冬不在時の俊春の俊冬にたいする不平不満の数々。
あれは正直、俊春自身がみせるすごい業の数々よりも破壊力があったし、なにより驚愕に値した。
いまこうして冷静に思いかえすと、じつは二人は仲が悪いのかもしれない。
「まぁまぁ、二人とも。いいよ、とってもいいよ」
あれやこれやとかんがえていると、いつの間にか大鳥が馬をよせてきていた。その向こう側には、副長も「豊玉」をたてている。
「そういうふうにいいあったりできるのは、兄弟仲がよい証拠だ。じつにいい。うらやましかぎりだよ」
大鳥は、にこにこ表情で、俊冬と俊春の喧嘩を大絶讃している。
うらやましいかぎり……。
そういえば、大鳥は赤穂地域の村の村医の長男だっけ。
「大鳥先生は、長男、もとい長子ですよね?「うらやましい」っておっしゃったのは……」
つい、きいてしまった。
「主計君、よくしっているね。過去のことは、あまり話さぬようにしているのに。だってほら、いまのぼくをみてもらいたいからね。過去のぼくではなくって」
「は、はぁ……」
大鳥の返しは、リアクションに困ってしまう。
「いまのぼくをみてほしい」って、どっかのイケメンが口説き文句につかいそうだ。とてもではないが、そんな歯の浮くようなセリフをいえるわけがない。
どの面さげていうんだよ、イケメン?
ってまた、副長ににらまれた。
おっとっと。
いまのはどうやら、副長がにらみつけてきたわけでなく、アイコンタクトを送ってきていたようだ。




