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あらためて再会をよろこぶ

「だれかさんとは、だれのことだ」

「だれかさんとは、だれのことなのです」

「だれかさんって、だれのことなんです」


 思わず、蟻通の言葉をききとがめてしまった。ゆえに、かれにツッコんでしまった。

 それは、おれだけではない。副長と俊春もである。だから、蟻通へのツッコミは同時であった。


「……」


 が、俊冬と握手をおえた蟻通は、おれたち三人をみまわしてから無言で肩をすくめただけである。


 暴走しまくっているのがだれかは、残念ながらわからない。


「たまーっ!さみしかったぞーっ!」


 そんな疑問などふっ飛ばしてしまう勢いで雄叫びをあげたのは、もちろん島田である。と認識するまでもなく、かれは同時に突進してきた。その突進ぶりは、猪もひいてしまうであろうというほどの猛進ぶりである。


 島田は、よく笑いよく泣く。感情表現が超絶すごすぎるのである。とはいえ、喜怒哀楽のうち怒だけは、あまりお目にかかったことはないが。


 兎に角かれは、斎藤ととおれをふっ飛ばし、ハグというにはなまやさしいような強烈かつ熱烈に俊冬を抱きしめた。


 ちょっ……。


 これは、ベア・ハッグ?


 俊冬の上半身のあらゆる骨のきしむ音が、いまにもきこえてきそうである。


 これが俊冬でなければ、確実に上半身をバラバラにされるであろう。これぞまさしく、チーンである。


 板橋で島田と再会したとき、よくぞあれを喰らわなかったことだ。


 そうか。あのときは、ちがう意味で強烈かつ熱烈なハグをする原田がいた。ゆえに、島田も遠慮をしていたのかもしれない。


「し、島田先生。く、くるしい……」


 さすがの俊冬も、殺人的ハグに苦しめられている。


「おお、すまぬ。つい、感極まってしまった」


 島田は照れくさそうにいいつつ、やっとのことで俊冬を解放した。


「おそろしすぎる」


 隣でこっそりつぶやいたのは、斎藤である。


 ああ、斎藤。心から同意するよ。

 かれの感情を刺激するようなことは、今後いっさい控えよう。


 

 それで?ええっと……。


 まだ挨拶をすませていないのは、俊春と相棒とおれなわけで……。


 って思っている間に、相棒がとっとと俊冬の脚許にちかづいてお座りしたではないか。例のごとく、相棒の尻尾はちぎれそうなほど盛大に振られている。


「ああ、わかっている。すまなかった」


 俊冬はそうつぶきつつ相棒のまえに両膝をおり、ぎゅっと抱きしめた。


 で?


 残るは俊春とおれなわけで……。


 どうするか?どうなるのかってかんがえていると、俊冬が熱き抱擁から相棒を解放し、立ち上がった。


 体ごとこっちに向きなおったので、必然的に視線があってしまった。が、かれの視線は、おれにさだまりきっていない。そのときやっと気がついた。

 いつの間にか、俊春がおれの横に立っているではないか。


 俊冬の視線は、俊春とおれの間を彷徨っているのである。


 これはもう、おれからではなく俊冬むこうにアクションを起こしてもらおう。って、あれやこれやと気をまわしてしまうのは、長年の社会生活のなせる業なのか?それとも、職場環境がブラックすぎて、気をつかいまくらなければならない悲しい習性なのか?


 って、さらにさらにかんがえてしまっている間に、俊冬がこちらに向かってきた。


 いつになくめっちゃマジな表情かおだ。いや、マジというよりかは怒りの表情かおのようにも思える。


 なんかいやな予感しかしないんだが……。

 

 かれはあっという間に、俊春とおれの近間にはいってきた。それどころか、ずかずかと懐のうちにまではいってきたではないか。

 これはもうパーソナルスペースの観点において、不快になる距離感である。


 かれの視線は、ありがたいことにおれから俊春にうつったままで、そこにとどまっている。


 だめだ。それでもやはり、なにかもの申さねば。


 笑いをとるか?それとも、まだまだ感動とかマジとかのモードをつづけるか……。


 って、おれは、まだまだ気をつかいつづけている。すると、俊春の左肩がおれの右肩にごっつんこした。


 俊冬に気をとられすぎていて、俊春との距離感にまったく気がつかなかった。


 もっとも、なにかに気をとられていなかっても、忍び以上に忍びの俊春である。距離を縮められていても気がつくわけがない。


 ってか俊春よ。なにかいおうよ。


 ついさきほどまで、皮肉をとおりこして暴言といっても過言ではない数々の単語ワーズを吐き散らしていたくせに。なにゆえいま、このタイミングでだまりこくっているのだ?


 もしかして、なんやかんやといいつつ照れくさいのか?ひさしぶりに会うので、緊張しているのか?


 なにせ、俊冬も俊春も、どちらも相方・・が側にいないと力がでないらしいし、さきほどのように口いっぱいのことをいいあっていても、そこはうれしいにちがいない。


 そうかんがえると、さっきの俊春の暴言は、かたくなな俊冬の意志を突き崩し、すこしでももどってきやすいように機転をきかせての言葉だったのかもしれない。


 さらにかんがえると、これまでのかれの俊冬の悪口、っていうか糾弾というか非難というか誹謗中傷というか、兎に角、きいているおれたちがひきまくり、俊冬が気の毒すぎて涙がでそうなほどの悪口雑言の数々は、きっとこの再会のときのまえフリ的なものだったにちがいない。



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