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せっかくのマジな説得が……

「たま。すべてをあなた一人で、いえ、ぽちとたまで背負うには、あなたたちの背はちいさすぎます。それよりも、副長やおれたちに共有させてください。そのかわり、おれたちもそれぞれの想いや苦しみを、あなたたちに共有してもらいます。いっそのこと、これを機にまえを向きませんか?うまくいえませんが、おれたちはまえに進むしかないんです。どんなに過酷でひどい運命であっても、進んでゆくしかない。そのためには、みんながまえを向いてなきゃいけないんです。一人でもちがう方向を向いていたら、うまく進めないでしょう?なにより、副長もおれたちも、あなたたちが必要なのです。あなたたちのすべてがほしいのです」


 おれよ、ちょっとまて。せっかくシリアスに熱弁していたというのに、最後の台詞がヤバかったんじゃないのか?もしかすると、なにか誤解を招くような表現をしてしまったんじゃないのか?


 そうか……。


 おれってば、シリアスなシーンに慣れていない。だから、緊張とプレッシャーで自分でも予期せぬ想定外の言葉をさしはさんでしまったのかもしれない。


 いまから訂正できるのか?さっきの台詞はなかったことにして、最初からやりなおしをすることはできるのか?


 そんな焦燥に苛まれまくっている間、一人として口をひらくことはなく、動きの一つもない。

 

 静かすぎる。さっきまで騒いでいた鳥獣も、いまはひっそりとしている。


 おや?もしかして、おれの熱い想いのこもったスピーチに感動するあまり、最後のほうは違和感なく受け入れられたのであろうか。それとも、スルーしてくれたのであろうか?


 ホッとしかけたときである。


「しゅ、主計……」


 斎藤がおれの横で感極まったような声音で名を呼んだ。

 そちらに視線を向けると、いつもはさわやかな笑みを浮かべているかれの相貌かおには、感極まっているっぽい表情が浮かんでいる。


 おおっと、おれの熱弁は、そこまで感動的だったというのか?

 

 おれ自身、自分でいいながら感動に酔いしれているところもあった。ここにスマホがあれば、録音しておいてことあるごとに再生したり、ここにはいない仲間たちにきかせたりしたかったほどである。


 悲しいかな。スマホどころか、いかなる録音機器もない。

 残念であるが、それぞれの脳と心にしっかり刻み込んでもらうしかない。

 

 って他人ひとにはそんなことを願っておきながら、おれ自身は、一字一句たがえず再現できるほどの記憶力はない。


 こればかりは、仕方のないことである。


「主計。おぬし、やはりぽちたまにまで懸想しておるのではないか」

「はあああああ?」


 斎藤にさっきの『あなたたちのすべてがほしい』発言を、ツッコまれるとは思いもよらなかった。


 まさかの斎藤の奇襲攻撃じゃないか。完璧、想定外であった。


 でもまぁ、斎藤はもともと天然である。しかも、KY的な面もある。しかもかれは、JKのようにそういう系の話題が好きみたいだし。


 かれの副長にたいする、悪意のない暴言の数々を鑑みても、ツッコんできてもおかしくなかったのかもしれない。


 って、そこじゃないし、斎藤を評価している場合でもない。


「すべてがほしい、などと……」

「わああああああああああああっ!」


 斎藤に体ごと向き直ると、かれの両肩をがっしりつかみながら叫びまくってしまった。

 かれの真実の追及を、なんとしてでもとめたかったからである。


 いまの叫び声で、またしてもこのあたりの野生の鳥獣が騒ぎはじめた。


 いまの叫び声も、敵軍にも届いたはずだ。


 これだけ叫び声をあげまくっているんだ。敵軍はきっと、おれたちのことを『あいつら、ヤバい系の集団だったんだ』って認定したかもしれない。もしくは、おれたちがダンジョンにでも迷い込み、ゴブリンの集団にでも襲われているって勘違いしているかもしれない。


 もしかすると、『かかわりあいにならずに見逃してよかったなぁ』って、伊地知と板垣の間で話をしているかも。


 そんなありえないことをかんがえているとき、副長が大笑いをしはじめた。しかもイケメンに似合わず、腹を抱えて大口をひらけ、よだれをまき散らしそうな勢いで「ガハガハ」笑っている。


 笑いが伝染するのはいつものことである。


 島田と蟻通も、涙を流しながら笑いだした。


 感動とうれしさの涙は、いまは『お笑い』のほうにかわってしまっている。


「あいかわらずであろう?おれが抱えているのは、隊士たちの生命いのちや矜持だけではない。それから、まとめたりするだけでもない。言の葉は悪いが、かような馬鹿どもの相手もしなければならない。体躯がどれだけあっても足りないよな。たま、おまえは馬鹿どもをあしらうことにも長けている。そうであろう?」


 さっきまで狂ったように笑いまくっていた副長が、不意に笑うのをやめた。


 イケメンに、キュンとしてしまうような笑みが浮かんでいる。

 そして、寂しさ感満載の声音で説得を再開しはじめた。




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