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変わり者の大鳥さん

 二本松城のちかくの坂下というところで、敵の一部隊がうろうろしているという。

 

 史実では、大鳥の伝習隊がその一部隊と遭遇し、ともにいた会津藩兵はとっとと退散してしまって伝習隊は見捨てられてしまう、となっている。


 当然のことながら、そんなプチエピソードに従うつもりはない。このくらいの出来事など、起こらなかった(・・・・・・・)としても後世にたいして影響がでるわけがない。


 というわけで、その敵の一部隊はスルーした。


 そのあとは行軍の速度をはやめ、陽が暮れてあたりが薄暗闇になった時分ころ、目的地に到着した。

 

 つまり、母成峠である。


 今宵は、ここで野営をする。



 各隊の兵卒たちは、立ったまま糒を喰っている。


 おれたちは、軍議である。


 「母成峠の戦い」について、ウィキに記載されている詳細で覚えているかぎりのことはすでに伝えている。


 ほかのウィキ同様、すべてをうのみにするつもりはない。


『当日は濃霧であること、こちらは第一から第三までの台場に大砲を設置して迎え撃つが、敵の大砲ニ十余門の砲撃に耐えられるわけもなく敗走する』


 ということは、まず間違いないであろう。


 戦の火ぶたがきられると、会津藩の兵卒たちはソッコーで逃げだすらしい、ということもつけくわえておいた。


 じつは、戦端がひらかれると同時に撤退命令がだされることになっている。

 第三台場が本陣になるのであるが、第一と第二の台場は、あっという間に敵に奪われてしまうことになっているからである。


 さらにもう一つ。これもまた、副長に伝えてあることがある。


「大鳥さん。明日は、あんたが指揮をとっちゃくれまいか?」


 軍議の席上、とはいえ、戦国武将みたいに床几があるわけではなく、岩の上に座ってとか樹にもたれてとか、各自思い思いの姿勢でいるのだが、兎に角、副長が大鳥に依頼した。


「案じてくれなくてもいい。こちらで策は練ってある。それをあんたの口から発してくれればいいんだ。今朝はああいったが、此度の戦は会津にとって正念場だ。ちゃんとした武士さむらいであり幕臣であるあんたが指揮をとったほうが、会津藩兵もやりやすかろう」


 その会津藩兵は、火ぶたがきられればソッコーで逃げだすので、だれが指揮をとろうと関係ないのではあるが……。

 

 ゆえに、このまま副長が指揮をとってもいいのである。


 が、この戦いの指揮官は、あくまでも大鳥である。


『大鳥が、指揮をとった』


 ウィキには、そのように記載されている。土方歳三、つまり副長にいたっては、所在が定かではないと記載されている。


 こういう大局では、できるだけ伝えられてることに忠実でありたい。


 なかなか芸が細かいよなって、自分でも感心してしまう。


「あー、土方君。気を遣ってもらって悪いんだけどね。ぼくはどうも「負け男」のようなんだ。ゆえに……」

「大鳥さん。あんた、誠にかわっているな。それに、武士さむらいらしくない。だが、家格や地位にこだわっているほかのくそったれどもにくらべれば、よほどまともだ」


 副長は、そのように笑いながらいった。


 周囲は暗い。火を炊くわけにはいかないからである。物音にも気をつけなければならない。ゆえに、戦国時代のように、馬たちにはわらじをはかせ、ハミを噛ませてある。もちろん、人間ひとも軍靴から草鞋にはき替え、移動している。


「土方君、きみに気に入ってもらえてうれしいよ」


 大鳥は、副長の世辞を真にうけたようである。


 副長は、それを苦笑でかわした。


 それから、俊春メイドの地図をひろげ、配置を指示していった。


 翌朝、史実どおり濃霧になった。


 そして、史実どおりの展開になった。


 火ぶたがきられてから、敵のテンションは超絶マックスで、大砲をガンガン撃ちまくってきた。


 第一と第二の台場には、それぞれ大砲を一門ずつ設置している。砲手には、二、三度撃っただけですぐに退くよう指示してある。ゆえに、第一と第二の台場はソッコーで落とされた。


 単純に『戦った』という、既成事実をつくりたいのである。が、こちらのヨミちがいがおこった。っていうか、おれの記憶ちがいか、あるいは伝えられている内容がちがっているのかはわからない。兎に角、敵の大砲の数や機動力が想像の斜め上をいっていたのである。


 これでは、敗走する背中をとらえられ、確実に喰いつかれて殺られてしまう。


 撤退しながら戦うのは、まえに進みながら戦うことより難しい。


 織田信長おだのぶながの、「金ケ崎の退き口」などがいい例である。


「副長」


 俊春が敵のいる方角からもどってきた。


 かれは、第一と第二の台場、それと峠下に配置されていた伝習隊と新撰組の一部を逃すため、単身で敵を攪乱してまわっているのである。


 さすがは、異世界転生で「傭兵」をやっていただけのことはある。


 かれは、「豊玉」にちかづいていった。それに気がついた副長は、「豊玉」からさっとおりた。


 うーん……。


 いまの副長の下馬のし方は、現代風にいえば「HON〇A」や「KAWAS〇KI」といった大型バイクから颯爽とおりるようなものだったのか?


 はやい話が、副長はカッコつけて馬からおり立ったつもりにちがいない。


 残念なことに、大型バイクがサラブレッドだとすれば、在来馬である「豊玉」や「宗匠」は、さしづめ原チャリのようなものであろう。


 いくらカッコつけておりようとも、原チャリだったらなぁ……。


 一瞬、『誠』のステッカーをべったりはりつけているヘルメットをかぶり、原チャリで道路のはしっこをトロトロと走行している副長が脳裏に浮かんでしまった。


 く、草すぎる。


「宗匠」の鼻面をなでながら、思わずぷっとふいてしまった。


 って、また副長ににらまれてしまった。


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