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憂いと焦り

 局長の提案で、試合にでる者で稽古をおこなうことになった。


 道場の窓、扉、すべて閉めきる。

 万が一にもだれかが通りかかり、興味本位でのぞかれでもしたらまずい。


 伊東派は、まだいるであろう。それ以外の者も。


 斎藤は、もう間もなく御陵衛士を抜ける。


 すでに御陵衛士あちらが、新撰組の両長をどうにかした上で新撰組を取り込もうと、本格始動しつつあることはわかっている。これ以上、御陵衛士あちらにいても、危険リスクが増すばかりだ。


 いま、斎藤が御陵衛士あちらでやっていることといえば、抜ける口実の為の工作である。そして、こちらのほうがさらに大切なことだが、藤堂へ最後の説得を試みている。


 だが、藤堂はあいかわらずかたくならしい。いったい、なにがかれをあそこまで強情にしているのか?


 藤堂は、育ちがさほど悪くないのであろう。さして卑屈でもいやらしくもない。どちらかといえば、気性のさっぱりしたやさしい青年、といった感じである。だが、流されやすい、というのは感じる。あるいは、影響を受けやすい、というのだろうか

 信じやすいというのは、だまされやすい、とも置き換えることができる。一途、というのは、ときとして強情になる。


 同門の先輩であり、兄貴分といっても過言でない山南の死が、そこまでかれをかたくなにしているのか?

 しかし、先日の副長とのやりとりでも、山南の死は副長とのかかわりではないということを、信じようとしている節があった。

 

 それなのに、なぜ・・・。


「この試合の後、一旦戻り、すぐ雲隠れ致します」


 刃挽きした刀を物色しながら、斎藤は囁くように告げる。


「申し訳ありません・・・」


 斎藤は、目にとまった刀に掌を伸ばしかけてそれを止め、昔からの仲間をみまわし謝罪する。


 両長、そして、井上、永倉、原田が斎藤をみる。


「どうしても、平助を説得することができそうにありませぬ」


 永倉と原田が弾かれたように副長をみた。


 おそらく、藤堂の説得まで斎藤にさせていることまでは気が付いていなかったのであろう。


「まったく・・・」

 局長もまた、一刀に掌を伸ばしながら溜息交じりに呟く。

「歳、どうにかならぬのか?」

 仲間内のときのみつかわれる、昔の呼び方。


 全員が、副長をみつめている。そうすることで、副長が打開策を述べるだろう、とでもいうように。


 だが、その期待は不発に終わった。いや、すくなくともいま、このときにはさすがの副長にもいい案が浮かばなかったようである。


「考えてみる・・・。いまは、それしかいえねぇよ、かっちゃん」

 副長もまた、昔の呼び方で局長に応じた。


 道場内にしばしの間、沈黙がおりた。


 それは、とてつもなく重い。

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