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順調に敗れています

「ったく。立派な隊士たちだな」


 副長が笑いだした。すると、その笑いはすぐに伝染し、全員が笑いだす。


 市村と田村の『立派な隊士』宣言からのおねだりは、出陣するおれたちの心をなごませてくれたのはいうまでもない。


 その二人は、俊春や相棒としばらく別れを惜しんでいた。


 そして、掌をふりあって別れた。


 しばしの別れである。


 このしばしの別れで、かれらの背がまた伸びるのではなかろうか……。


 予想するのも怖ろしい。


 ちなみに、あとで俊春に確認したところ、俊春は二人の自尊心をくすぐりつつうまくいいきかせたらしい。


 かれらは素直である。自尊心をくすぐりまくられた結果、「若松城にいってあげていい」ってことになったのだとか。




 そこからは史実どおり、戦場に赴いてはテキトーに応戦し、ヤバくなるととっとと敗走し、いったん後方にさがって休んではまた敗れにいくということを繰り返した。


 大砲のほうの伊藤が戦死するはずであった日は、とくにだれも怪我もなくやりすごし、いまのところはたいした被害がでていない。


 俊春だけは、単身で敵味方をふくめてさまざまなところに潜入しては探ったり、戻ってきて報告したり、ぶちあたる予定の地形や敵の様子を物見しては詳細に戦術をたてたり、さらには、実際の戦闘中には副長にアドバイスを送るという、一粒で二度おいしいどころか一人何役もこなすという大活躍をしている。


 かれに「なにかお手伝いでも」と申しでたい気持ちは、磐梯山よりでっかくある。とはいえ、なんの役にも立てるわけがないこともよーっくわかっている。


 ゆえに、おれはかれの「お父さん犬」である相棒の面倒を、かれにかわってみることに徹している。


 んんん?それってなんか、ちがうくね?

 まっ、いっか。


 相棒がいやがるかと思ったが、って、そんなにまでおれたちの関係は悪化し冷え切ってしまいまくっている?って、やっぱそうなんだろうか、おれたち?兎に角、相棒も俊春むすこの多忙ぶりはよく理解しているようだ。相棒はときどきこちらをにらみつけてはくるものの、とくにトラブルも仲たがいもなく、おれの側にいる。


 ってか、これもなんかちがうくね?

 まっ、気のせいか。


 

 原田とともに丹波に向かった元隊士の矢田やだ、それから原田自身、二人がそれぞれいたはずの場所で死ぬはずだった日もすぎた。


 沖田が江戸の千駄ヶ谷のある植木屋で死ぬのも、もう間もなくのことである。


 沖田は元気にしているであろうか。


 原田は上野で彰義隊とともに戦い受傷。それが元で死んだといわれている。矢田は、靖兵隊の一員として今市で戦い、戦死する。


 ゆえに、戦からはなれれば、死を回避できる可能性は高確率である。が、労咳で死ぬことになっている沖田はそれらとはちがう。


 労咳は治ってはいない。俊春との勝負で、劇的な復活劇を遂げたかれであるが、労咳そのものはかれの体を蝕んでいるままなのである。


 静かでストレスのない環境で、労咳の進行をどれだけおさえられているか……。


 敵から逃げながら、副長に嫌味をいわれながら、糒を喰いながら、一息つきながら、ついつい沖田のことをかんがえてしまう。


 副長には、以前沖田がだいたいいつ頃死ぬかは伝えたと思う。

 が、副長はなに一つきいてこない。


 忘れている、とかではないはずである。


 近藤局長を亡くし、それでなくとも傷心している副長である。沖田まで喪うかもしれない。そんなことは、かんがえたくないのかもしれない。わざと話題にのぼらせたくないのかもしれない。


 だから、おれもわざわざ思いださせるような言動はしないでいる。


 俊冬がもどってくるのももう間もなくである。かれは、京でさらされる近藤局長の首級を奪還しにいっている。そのついでに、丹波に様子をみにいくであろう。


 かれがもどってくれば、沖田の様子もしれる。


 そう期待しまくっている。


 

 会津遊撃隊とともに白河口へと進撃するも、戦わずして巻ノ内というところにまで敗走した。


 新撰組おれたちが到着したときには、会津の前衛が総崩れになっていたためである。


 敗走の途中、島田が腕を負傷した。流れ弾がかすったのである。たまたま俊春が居合わせたため、かれがすぐに応急処置を施してくれた。福良に病院があるため、島田はほかの怪我人とともに、福良にある病院に収容された。


 巻ノ内で休陣する。つぎは、大平口に出陣する予定である。


 休陣といっても、巻ノ内じたいはちいさな村である。家屋に泊まってというわけではなく、夜営である。


 とはいえ、明日には大平口に向かう。それまでの間、筵を敷いて横になって休む程度である。それでも、心身を休められるのはありがたい。


 昼すぎ、大平口界隈に物見にいっていた俊春がもどってきた。


 どこぞの一隊が、かれのうしろをぞろぞろついてきているのである。


 その隊は、会津の諸隊とちがって本格的な軍服に身を包み、装備を伴っている。


 が、控えめにいっても戦塵にまみれまくっている。

 ぶっちゃけ、ズタボロ状態である。


 よくもまあ、無事に隊として保っているものだと、いらぬ感心をしてしまった。

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