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馬 馬 馬 

「副長っ、ご覧ください」


 ウキウキ感満載なのは、安富も同様である。こちらにちかづいてくるかれは、JKのごとくきゃぴきゃぴしている。


「「豊玉ほうぎょく」と「宗匠そうしょう」にそっくりでしょう?」


「豊玉」と「宗匠」というのは、新撰組がまだ京にいた時分ころに会津侯よりいただいた馬である。

 その二頭に名を授けたのが、一番組組長である沖田総司おきたそうじだ。


「豊玉宗匠」という俳号をもつ副長にたいする嫌味、もしくは面白がって?もとい、敬意を表してのネーミングにちがいない。

 おれは、いまでもそう信じている。


 それは兎も角、ちかづいてくる馬たちをガン見してみる。

 

 体高はポニーくらいで、やたらどっしりしている。いわゆる、日本特有の在来馬である。

 そこまではわかるが、「豊玉」と「宗匠」に似ているかどうかまでは正直わからない。


 安富がいうのだから、そっくりなのであろう。


「会津侯は、いつもながら太っ腹ですな。白河城からの使者が、『好きな馬を好きなだけもってゆけ』と、会津侯からのめいを伝えたのだとか。ゆえに、「豊玉」と「宗匠」に似た馬を連れてまいりました。どうせなら、馬房にいる馬すべてを連れてまいりたかったところですが、若松城も必要です。涙をのんで、四頭にいたしました。その四頭を、どうやって選んだかですが……」

「才助。それはまた後程きこう。ここは往来だ。黒川にもはやくいかねばならぬ」


 馬フェチ安富による馬の説明は、おわりをむかえそうにない。副長は辛抱強くきいていたが、たまりかねたらしい。苦笑とともに、そのようにさえぎった。


「はぁ……。ならば、名は?名はどういたしますか?」

「それも、後程かんがえてくれ」

「承知。いい名をかんがえましょう。では、副長。おのりください」


 安富にうながされ、副長は一つうなずいた。


「もう一頭は……」


 副長は、馬上から視線をおれたちのほうへとめぐらせる。


 その間に、沢と久吉が荷馬車の方へと駆けていった。


「斎藤か島田か、どちらか……」

「わたしは遠慮します。島田先生、どうぞ」

「おれも遠慮する。斎藤こそ乗るべきだ」


 副長がいいきるまでに、斎藤と島田がおしつけあいをはじめてしまった。


 どうやら、ながい間馬にのっていると、尻の皮がむけてしまい、フツーに座るのも地獄の苦しみを味わうとか。


 おれも一応は乗馬ができるが、尻の皮がむけるまで馬に乗りまくったことはない。だから、そんな苦しみを味わったことがない。


 甲州の勝沼に進軍し、結局負けて江戸へ舞い戻った際、斎藤と永倉と原田といっしょに馬で逃げた。その際は、馬の負担をすくなくするため、山のなかでは馬からおりて手綱をひっぱった。だから、あのときもそんなにいうほど馬にのらなかったのである。


「ならば、才助かぽち……」

「わたしは、すべての馬をみてまわるのです。馬に乗っていては様子がよくみれますまい。それに、危急の際ならまだしも、移動するだけでかわいい馬を尻に敷くなどと・・・・・・。かわいそうすぎて、できるわけがない」


 その安富の持論に、それをきいていた全員の口があんぐりと開いた。


 あの……。騎馬っていったい、なんなのでしょう?


 馬フェチぶりも、ここまできたら神越えレベルであろう。


「わたしは、物見にでますゆえ。副長、主計はいかがでしょうか。乗馬も、剣術並みにできるようですし」

「ちょっ……。ぽち、推薦してくれるのはすっごくうれしんです。マジ、光栄です。ですが、推薦の仕方がどうもひっかかるのですが」

「ひっかかる?」


 かれは、かっこかわいい相貌かおを右に左にかたむける。


「事実を申しただけなのであるが、それがなにか?せっかくおぬしを推しているというのに、おぬしはわたしに難癖をつけ、またいじめようとでもいうのか?」

「うううううううううううっ!」

「おおっと!相棒、やめてくれ。ぽち、いじめてませんってば。剣術並みにできるっていうところが、ちょっとひっかかっただけです」


 ちょっとといったが、じつはめっちゃひかかっている。

 どういう意味なんだよ、ったく。完璧、嫌味じゃないか。


「せっかくですが、おれも遠慮させていただきます。おれよりステータスの上のみなさんが遠慮されていらっしゃいますし。おれなんて、新撰組っていうパーティーのなかで「兼定の散歩係」っていうくそスキルしかもっていませんし、剣士としては底辺レベルです。しかも、いますぐに追放されてもおかしくありません。そんなおれが、馬に乗るなどありえないことです」

「んんんんんん?いまのは、どういう意味かな?」

「いいんですよ、島田先生。ただの異世界設定です」


 好奇心旺盛な永遠の少年島田の問いに、にっこり笑って応じる。


「勘違いをするのではないぞ、主計」


 俊春のかっこかわいい相貌かおに、呆れかえったような笑みが浮かんだ。


「おぬしは、ただの的だ」

「はあ?的?」


 俊春の回答は、例のごとく想像の斜め上をいきまくっている。




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