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副長が斎藤に……

 斎藤が会津の間者になったこと。それから、おれたちよりさきに会津にいってがんばったこと。これらはすべて、土方歳三のためであったにちがいない。


 くどいようだが、この二人はそういう関係ではない。


 兎に角、そんな斎藤である。残れといわれれば、子どもみたいに泣きじゃくって駄々をこねるのだろうか。それとも、全力で拒否するのだろうか。


 斎藤だけではない。副長も、である。斎藤にたいして、ほかの者とはまったくちがう想い入れがあるようだ。


 おれが史実を伝えたばかりに、副長は自分の想いを封印し、非情なめいを下さねばならない。


 永倉や原田と同様に、斎藤をどれだけ連れていきたいだろうか。


 おれなどには、とうていかんがえもつかない。


 兎に角、副長はいまこのタイミングで告げるつもりなのだろうか。


 この奇妙な間のなか、ドキドキがとまらない。


「斎藤」


 副長は、また斎藤を呼んだ。斎藤はムダに何度も呼ばれ、きょとんとした表情かおで副長をみている。


「副長、なんでしょうか?」


 また間があいた。


 せっかちでしゃべりな副長が、これだけもたせるのはめずらしい。斎藤でなくっても、困惑するだろう。


 ゆえに、斎藤は自分で副長を促さなければならなかったわけである。


「い、いや。なんでもない」

「なんでもない?二度も呼んでおきながら、なんでもない?」


 当然の疑問である。


 ただそれをいったのは、当の斎藤ではなくおれってところがなかなか気が利いている。


 あ、いや。いい訳をするつもりなど毛頭ないが、副長が抱いている「なにか」をやわらげるなり減らすなりしてあげたかったのである。


 副長は、おれがああいえば「主計っ!いらぬこというんじゃない」って、かなりの高確率で雷を落とすにきまっている。さらには、拳固とか平手打ちとかを喰らわす可能性もおおいにあるだろう。


 まさしく、捨て身の戦法である。


 おれってば、なんて上司想いなんだ。


「主計っ!」


 ほーらきた。


 んんん?でも、いつもの勢いがないぞ。それに、呼んだだけでまたしてもつぎの言葉がでてこない。


「ああ、そうだな。主計、おまえの申すとおりだ。斎藤、すまなかった。どうやら、いいたかったことを忘れちまったようだ」


 なんと、副長はおれを理不尽な目にあわせなかったばかりか、バレバレの嘘をついてごまかしてしまった。


「ぽち、餓鬼どものことを……」

「承知いたしました。かれらに話をしてみましょう」


 それから、不自然なまでに話題をかえた。


 あっ副長の場合は、こういうのはいつものことである。が、今回はそれでも不自然すぎた。


 それは兎も角、俊春が副長の言葉に途中でかぶせてしまったが、副長がいいたかったのは子どもらのことである。

 

 副長は、俊春に子どもらに若松城へゆくように説得してくれといいたかったのである。

 

 それを、俊春はさきんじて了承したというわけだ。


「土方さん」


 そのとき、開けっ放しの障子の向こうに蟻通と安富と中島、尾関と尾形があらわれた。


 蟻通が声をかけながら入ってきて、それぞれの位置に胡坐をかいたり正座をしたりする。


 男ばかりが十名、十畳程度の副長の部屋ではちょっとばかし狭いようだ。


 じつは、いまから軍議をおこなうのである。


「そろったな」


 さきほどの副長とはちがい、いまの副長は新撰組のトップとしての態度に戻っている。一人一人の相貌かおをみまわし、これからマジな話をするのだということをおれたちにリマインドさせる。


「きいてくれ」


 副長は、俊春メイドの地図をひろげた。その地図を、全員がのぞきこむ。ところどころにマル印やバツ印が入っているのは、新撰組が赴く はずの戦場である。

 

 新撰組が関与するおれが覚えているかぎりの戦を伝え、俊春に印をいれてもらったのである。


 あらかじめ副長と斎藤、島田と俊春に、今後の戦の展開やその結果を伝えた。


 残念ながら、新撰組は会津での戦いのほとんどを敗退する。


 まずは明日向かう黒川。ここをかわきりに、三代、白河城、白河口、大平口、大熊川などで戦う。その間、巻ノ内や羽田、長沼などで休陣をしつつ、戦場にでては敗走し、転陣しては戦い負けるを繰り返すわけである。


 軍議は、深夜にまでおよんだ。


 新撰組うちは手練れがおおいとはいえ、数にかぎりがある。それぞれの才覚にあわせた配置、役割を決めなければならない。


 つまり、一人たりともその実力を発揮できないような状況にはできないわけである。


 そうならぬよう、ここにいる幹部がうまく指令をださなければならない。


 って、どさくさにまぎれ、おれ自身も幹部にくわえているところが、自分でも草である。


「明朝出陣するが、正直なところ、かなり厳しい状況だ。いくつか戦いをくりひろげることになるだろうが、被害を最小限におさえたい」


 史実で負けるということがわかっている。いまできることは、副長がいったとおり、できるだけ被害をおさえることである。


 本来なら、俊春が暗躍すればいいのかもしれない。


 つまり、会津に進軍してきている敵の上層部を、かたっぱしから暗殺してまわるのである。






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