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道場破りとは

 試衛館は、江戸市中、現在でいうところの新宿区にあったらしい。


 そのちかくに、江戸三大道場の一つ、神道無念流の「練兵館」があり、交流があったという。

 そこで桂小五郎が塾頭をしていた、という話は有名である。


 天然理心流じたい、神道無念流や北辰一刀流と比較して正直、ぱっとしない。

 実際、諸藩の藩士が江戸に剣術遊学する際は、どちらかの流派であった。

 道場は「練兵館」、鏡新明智流の「士学館」、そして、北辰一刀流の「千葉道場」。


 剣術の修業者のおおくは、この江戸三大道場のうちの一つの門を叩いたという。


 坂本は、千葉は千葉でも小千葉と呼ばれた道場で学んだ。

 

道場破り、というのがいる。


「たのもー」と門前で呼ばわり、自分の腕でそこの門弟やら師範代やら、はては道場主までぶっ倒し、自分の腕を上げる、もしくはしらしめる、という純粋な意気込みによるものではない。


 現代流に表現すると、道場破り詐欺、といったところか?


 まず、リサーチする。ぱっとしない道場を選ぶ。すくない門弟を相手に、ほそぼそと道場経営を営んでいる零細道場である。


 そこの道場主、あるいは、強そうな師範代がいないときをみはからい、のりこんでゆく。そして、いかに自分は強いか、腕が立つかを吹聴する。そこの道場の門弟一人、二人と試合をするであろう。

 大法螺を、それこそそれっぽくきかされ、大剣豪であるかのように、門弟たちはびびりまくるであろう。

 たとえ力があったとしても、最初はなから気がくじけてしまっている。

 そういうビビリを叩きのめすのは、詐欺師たちにとっては口で丸め込むのと同様、誠に容易い。


 どんな道場にも看板、すなわちプライドがある。それを傷つけられれば門弟は集まらない。いまいる門弟たちですら、ほかへ去ってゆく。


 そこで道場主や名代がとるべき手段は、懐紙に金子を包み、道場破りの袂にそれをそっと入れること、なのである。

 だれもなにも傷つかない、てっとりばやい手段である。


 そして、詐欺師にとっては、さして労せずまとまった金子が手に入る、というわけだ。


 いっぽうで、道場破りがやってきた場合、それがあきらかに詐欺っぽくなく本物とわかった場合、とるべき手段の一つとして、ほかの道場から腕の立つ剣士にきてもらうことである。

 その剣士に、門弟か師範代を装ってもらい、試合をしてもらう。


 もちろん、ただではない。派遣された剣士とそこの道場主、ともにお足代を包む。定期的に酒宴を催し、招待することも忘れない。


 これらのことを、小説でよんだ。そして、そういうこともあってもおかしくないなとか、面白いな、と思っていた。

 

 それらの小説では、試衛館はたいてい派遣してもらっていたと。


 江戸四大道場、という場合もある。

 最後の一つは、幕臣伊庭八郎いばはちろうの生家である心形刀流の伊庭道場である。


 近藤局長の養父である近藤周斎は、その伊庭道場の道場主であり伊庭八郎の父親である伊庭秀業いばひでなりと仲がよかった。したがって、危急の際には、まず伊庭道場から剣士ひとを派遣してもらった。

 伊庭道場も、つねに派遣できるわけではない。ついで頼んだのが、ちかくにある「練兵館」である。


 ある小説では、なんと、桂小五郎も派遣されたことがある、という展開だったと記憶している。


 だとしたら、将来、敵対する間柄である。じつに興味深い。


 うだうだと説明したが、屯所に戻り、副長に坂本の怖れをしらぬ、突飛すぎる申しでを耳打ちした。


 すると、副長は、フィクションだと思っていたことをすべて否定し、それらがノンフィクションだったことを暴露してくれた。


 しかも、「小千葉」とも交流があり、坂本にも会ったことがあった、とも。


 心底驚いた。坂本にしろ桂にしろ、さらには高杉もらしいが、こういう旧知のおとこたちと、京にきたら敵になってしまった。

 公共の場所で、おおっぴらに満面の笑みをたたえながら、握手できる関係ではなくなってしまったのである。


 双方ともに、どういう気持ちなのだろう・・・。


 坂本は、内心ではあとにつなげるなにかを、新撰組に、というよりかは将軍家の信任の厚い会津候に求めているのかもしれない。

 その足がかりにでもなればと、だめもとで期待しているのであろう。


「面白そうだ」


 漠然と模索していると、副長がイケメンの顔にいたずらっぽい笑みを浮かべて囁いた。

 驚きの声をだしかけたのを、右の人差し指を立てて制する。


「坂本の腕は、しっている。黒谷あいづは、驚くぞ・・・」


 そして、さらにいたずら小僧のような笑みを浮かべ、つけたす。


(いや、驚くのは黒谷あいづだけではないでしょう、副長?)


 力いっぱい突っ込みたくなるのを、必死で我慢しなければならなかった。 

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