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なんとかならぬのか?

 呆れかえっていると、俊春が上目遣いにおれをみている。その隣には相棒がよりそい、やはりおれをみている。


 クリソツすぎる。


 これでもう何度となく実感してしまっている。

 

 もちろん、相貌かおがっていうわけではない。あ、相貌かおもなんとなく似ているが、なにより雰囲気がそっくりだ。

 厳密にいえば、俊春が犬っぽいというのであろうか。


 そんなおれの妄想のなか、かっこかわいいかれの相貌かおに意味ありげな笑みが浮かび、すぐに消えた。


 それでやっと悟った。


 さっきの神業は、副長の誠の力でも剣聖の業でもなかったわけだ。


 俊春かれがそうなるよう、おれごと動いたのだ。


 なんてこった……。


 これもまたすごいってことを、実感してしまう。


 って、ちょっとまてよ?


 これって下手をすれば、おれの眉間にぶすりといっててもおかしくない事案なのではないか?いくら俊春が神をも凌駕する力の持ち主だとはいえ、相手はあの副長である。いつなんどきチート所業を発動するかわからなかったし、そうじゃなくっても間を詰める間によろめいたり転んだりってこともあったかもしれない。


 そうなれば、眉間にブスリとまではいかなくっても、顔面や体のどこかをブスリッてことになっててもおかしくなかったわけで……。


 俊春ーっ!そんな危うい賭けをするんじゃない。


 もちろん、いまのもダダもれしている。


 俊春のかっこかわいい相貌かおが、怪訝そうにゆがんだ。右に左にそれをかたむける。


「あたったらあたったで、それは運がいい」


 そして、にっこり笑っていう。


 いやいや。大当たりも、それは意味がちがうじゃないか。


 ツッコミどころ満載である。


「副長、ご用件の向きは承知しております」


 おれがツッコむよりもはやく、俊春がマジな表情かおでおれごしに告げた。同時に姿勢をただし、かっこかわいい相貌かおをわずかに伏せる。


「そうだな。主計をいじっている場合じゃねぇな」

「はあ?いじるって、本人をまえにやめてくださいよ、副長」


 副長がちかづいてきた。左腰の「兼定」を愛おしそうになでながら。


「先夜の二人を感じただけでも、かなりの覚悟をしております。それを、われわれのようなよそ者が覆すことはむずかしいかと」


 俊春は、いいにくそうである。


 それではじめて、副長がここにやってきた理由がしれた。


 俊春に、白虎隊の子どもたち、もとい、隊士たちをどうにかしてもらおうというわけだ。


「かれらは、いい意味でも悪い意味でも武家の子です。家のため、主君のため、会津藩のため、すでに死ぬ覚悟はできております。そこにわれわれがなにを説こうが申そうが、きく耳はもちますまい。かえって依怙地になるだけです。それどころか、われわれが臆病心からそういわさしめていると理解するでしょう。下手をすれば、新撰組は敵のまわし者だとか、逃げるよう触れまわっているなど、大人に告げ口をすることになります。そうなれば、われわれの立場がなくなります。子どもは純真でまっすぐなだけに、かえってあつかいにくいものです」


 かれはいっきに告げると、口をとざした。


 たしかに、俊春のいうとおりである。

 

 たとえ子どもであっても、覚悟をするということについては大人に負けやしない。かえって大人よりも強固かもしれない。


 だとすれば、おれたちはみすみすかれらを死なせるしかないのか?


「会津藩のすべてが、新撰組われわれに好意的というわけではございません。子どもらのなかにも、親や親類からいいようにきかされていなければ、好意をもっていない子もいるでしょう」

「だとすれば、みすみす死んじまえってことか、ぽち?」


 副長の辛辣な問いである。怒っているというよりかは、俊春のいうことを理解できているので、悔しまぎれ的にいっている感じである。


「残念ですが、そのとおりです。副長、それから主計。かれらは、一様にかたくなすぎます。われわれからの働きかけは、不利益にこそなれけっして益にはなりませぬ。これがもし中将の耳朶にでも入りましたら、その時点で会津藩と新撰組との関係はおわります。中将も、個人的にはどうにかしたくとも、藩主としてはそうもいきませぬ。さすれば、放逐などなんらかの手段をとらざるをえませぬ。それは、両者にとっていいものではございません。ここはどうか気持ちをおさえていただき、かれらにせっしていただきますよう……」


 俊春は、そこで深々と頭をさげた。


 かれのいうことは、いちいちもっともすぎる。理解できる。頭では。


 しかし、やはり心情ではそうはいかない。


「わかった。おまえの申すとおりだ」


 副長もおれとおなじなのだろう。


 ぶっきらぼうに告げると、背を向け丘をくだりはじめた。


 俊春は、頭をさげたままそれを見送っている。


 おれもやはり、納得しているわけではない。


 しかし、かれを論破することもできない。


 それだけの力も覚悟もないからである。


 副長の背と頭をさげたままそれを見送る俊春とを、交互にみつめるしかなかった。


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