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白虎隊の隊士たち

「失礼いだした。おらだぢは、白虎隊さ属してるんだ」


 一番年長っぽい子がいい、かれらはあわてふためき、押し合いへし合いしながら整列しようとする。

 が、あわてるものだから、もみくちゃになっている。


 ちょっとかわいいかも。


「いいから落ち着け。うちの餓鬼どもよりかは、ずっと礼儀がなっていて武士さむらいらしい。かまわぬ。おれに礼をとる必要などない」


 副長が笑顔でいってやると、かれらもやっと落ち着きを取り戻した。

 とはいえ、ちゃんと直立不動の姿勢はとっている。


「新撰組副長土方歳三だ。うちの餓鬼どもが世話になっているらしいな」

「白虎隊士中二番隊の酒井峰治さかいみねじです」


 さっきのリーダーっぽい子が名のった。


 その名前は記憶にある。生き残った子の一人である。

 

 たしかかれは蝦夷に渡り、生涯、元白虎隊士であることを語らないはずである。

 かれの死後、親族が仏壇かなにかを整理していたときに、かれの手記らしきものを発見したのである。

 

 その発見は、平成に入ってからであったと記憶している。


 もしかすると、酒井は生き残ったことにうしろめたさを感じていたのかもしれない。


「おなじく、二番隊士伊東悌次郎(いとうていじろう)です。おらだぢの方が、新撰組の方々にお世話になってるんだ」


 ひときわ体格のいい子が堂々といった。


 伊東悌次郎だって?


 くそっ!


 この子は、自刃してしまう子である。

 たったの十五歳である。それなのに、飯盛山でほかの六名の仲間と自刃してしまうのだ。


「土方殿の噂はぎいでる。ぜひ、おらだぢに剣術の稽古つけでくんちぇ」


 伊東って名だから、というわけではないのだろう。

 副長ラブのおねぇ、もとい伊東甲子太郎いとうかしたろうとおなじ漢字の伊東は、副長にとんでもないことを要求してきた。


 会津藩では、副長に関してどういう噂が流れているんだ?

 

 沖田と俊春の対決の際、藩主である松平容保まつだいらかたもりや老中、剣豪にして酒豪の佐川官兵衛さがわかんべえら剣の達人たちが、自分の両瞳で副長のチートな攻撃をみているはずなのに……。


 会津藩よ、大丈夫なのか?


 伝言ゲームや尾ひれ的に、誤って拡散されてしまっているにちがいない。


「だめだめ。その(・・)副長は、たいしたことないない」


 副長がおれのダダもれのかんがえをよんでにらんでくるよりもはやく、市村がダメだしをした。


 そのストレートすぎるダメだしに、またしても久吉がふいた。それでまた、「申し訳ございません」とぺこぺこ謝る。


 市村よ。いくらなんでも、一応上司にして庇護者なんだぞ。それを、そこまでいうか?

 

 そこがやはり、大人と子どものちがいなんだな。


 おれは大人だから、同様のことを思っていてもけっして口にだすことはない。心のなかでオブラートにくるんだとしても、口の外にはださないといいきれる。


 って、また副長ににらまれた。


「ぽち先生がかえってきたら、教えてくれるよ」

「うん。副長なんかより、ぽちたま先生の方が、ずっとずっと強くて教え方もうまいから。すぐに強くなれるよ」


 なんてこった。よりにもよって、副長と俊冬俊春の最強の双子を比較するか?

 

 レベルがちがうどころか、そんなものはカオス状態で草でしかない。


 って、またにらまれた。


「局長をたまに、副長をぽちに譲った方が、餓鬼どもはよろこぶだろうよ」


 副長が、久吉とおれにつぶやいてきた。


「か、かようなことはございませぬ」


 久吉は、超大人である。神対応でソッコーかわす。


 おれは、ムダに反応せずスルーしておく。

 こういうことは、そうするにかぎる。


 って、また副長ににらまれてしまった。


「酒井君、伊東君。おれが若松城そちらに出向いてもいいが、手続きやらなんやらが面倒だ。ここらあたりに町道場はあるか?明日、そこで会わぬか?よければ、ほかの隊士たちも連れてくればいい。新撰組われわれを好意的にみてくれる大人も大歓迎だ」

「ほ、ほんとうべが。町道場だらあります。あどでだれがにしらせにいがせます」


 副長のまたもや意外な提案に、白虎隊の子どもら、もとい隊士たちはおおよろこびである。


 本当は、そんな思い出などつくらないほうがいいのかもしれない。

 しかし、かれらのうれしそうな表情かおをみていると、そんなネガティブな思いなどふっ飛んでしまう。


 そうだ。こうなったら、一人でも助かるようにすればいいんだ。

 副長は、そのためにもちかけたのかもしれない。


 さすがは副長である。


 このときばかりは、さすがだと思ってしまう。


 そのあと、掌を振りあってかれらと別れた。


 かえりながら、副長にどうするつもりなのか尋ねてみた。


「きまっているだろうが。いままでとおなじだ。わかっててみすごせるか。しかも、まだ餓鬼どもだぞ。会津も藩をあげてってのはわかるが、あんな餓鬼にまで刀や銃を握らせ敵に向かわせるなんざ、酷なこと……」


 副長は、中途で言葉をとめてしまった。


 本来ならば、いってはならぬことなのである。


 副長がいいたかったのは、「酷なことをさせるものだ」、あるいは「酷なことだ」だったのだろう。


 そのとき、ふと思いだした。


 京で子どもたちと黒谷を訪れ、会津侯に会ったことがある。

 黒谷は、守護職である会津藩が拠点としていたところだ。


 その際、会津侯から子どもたちへと刀料をいただいた。









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