磐梯山
「いくら兼定がついているっていっても、ガキどもだけでうろうろさせるのもな」
「では、おれもいきますよ」
「……」
「ちょっ……、なんなんです、いまの間は?まさか、おれだと万が一の事態でも役に立たないとでも?」
「ああ」
「なっ……」
ソッコー肯定されてしまった。
フツー、そこはごまかさないか?
「主計がいてもな。ならば、おれもゆこう」
「……」
「まちやがれ。主計、いまの間はなんだ?まさか、おれが役に立たないっていうのか?この美しいおれが、なんの役に立たないとでも?」
「はい?そりゃぁ、鉄と銀が女性の刺客に襲われるというのでしたら、一瞬気をそらすことはできるかもしれませんが……。お色気満載のくノ一漫画じゃないんですから、それはないでしょう?だいたいは、むさくるしい野郎が襲ってくるはずです。それに副長の美しさっていわれたところで、よりいっそう敵意を煽るだけでしょう」
「だろうな。相手は、やっかむわけだ。このおれの美しさにな」
「……」
返す言葉もない。
おれがいいたかったのは、「美しさ」など、なんの役にも立たないっていうことなのに……。
でっ結局、みんなまとめていくことになった。
ちょうど久吉が通りかかったので、かれも誘った。
子どもらは、上機嫌である。
どうやら、みんなでわいわいいけるというのがうれしいらしい。
いまさらであるが、この七日町は会津若松の城下町として、現代では観光地の一つとしてあげられる地域である。
米沢街道、日光街道、越後街道などに沿っているので、旅籠がおおいというわけである。
明治期には商店街などができ、わりと繫栄するも、昭和に入ってから衰退、その後、明治期の建物が多く残っているところからみなおされ、観光地の一つとして注目を集めることになる。
もちろん、いまはまだ旅籠がおおい。
昼日中であるが、宿屋ですら閉めているところがある。人どおりもすくない。
連れもってあるいていても、ぴりぴりとまではいかなくても、そこはかとなく非日常的な気配を感じる。
うーん。どうも会津までやってきている感がない。っていうよりかは、ここが会津だっていう感じがしない。
現代のように、飛行機や電車、車やバスで他府県からくれば、いやでもここが会津、もしくは福島県までやってきたとわかる。
が、てくてくあるいてきて、「ここから会津」とか、「ようこそ会津へ」とかそういうでっかい案内板がかかっているわけではない。
いつの間にか、会津藩の領内に入っている感じである。
自覚のしようもない。
これがまだ冬季なら、雪が降り積もっているだろうから、すこしは実感できるのかもしれないが。
そんなおれの「ここは会津?」という感覚は兎も角、子どもらが案内してくれたのは、七日町をはずれた街道沿いにある小高い丘である。
「わお!あれって磐梯山ですよね?」
丘の上までのぼったとたん、それが一番に双眸に飛び込んできた。
「さようです。わたしもはじめてみたときには、あの貫禄に感激いたしました」
久吉が教えてくれた。
すごい。
その一言である。ほかのどの山より、どっしり感がある。それも、やさしく包み込んでくれるようなどっしり感である。
ジワる。
現代で、学生時代に駆け足観光をしたことがある。もちろん、幕末関係の名所をみるためである。もちろん、磐梯山も眺めた。
が、いまここでこうしてみるような感動はなかった。
自分が観光客ではなく、幕末時代の歴史にかんでいる当事者だから、というだけではないのかもしれない。兎に角、感動ものである。
「SHI〇O」という漫画がある。不幸な生い立ちの兄弟が、動乱の幕末を刀で戦って生き抜こうとする漫画である。もちろん、新撰組もでてくる。
その兄弟がはじめて会津を訪れた際にも、雪の磐梯山をみ、すっごく感動していた。
漫画ではあるが、その兄弟の感動はよく理解できる。
「これは、すごいな」
副長も、双眸を細めて眺めている。
「でしょう?すっごくきれいだよね」
「兼定、みてる?すごいよね」
市村も田村も鼻高々である。相棒も、お座りして尻尾をふりふり眺めている。みえているかどうかは謎であるが。
「あれは、若松城でしょうか?」
北東から南東へ視線をうつしてみると、この丘からそう遠くないところに小ぶりの城がみえる。小ぶりといってもそこそこなんだろう。
「さようです。主計さんは、よくご存知でございますね」
久吉がほめてくれた。
ほめられることに慣れていないおれには、ムズムズとした気持ちになってしまった。
「当然だ。こいつは、こういう知識だけは豊富でな。か・ん・し・ん、しちまうよ」
ソッコーでイケメンが嫌味をぶちかましてきた。
こういう知識、というのは幕末関係のそれにほかならない。
「悪かったですね」
頬をふくらませてしまった。
「女子みたいな表情をしたってかわいくないんだよ」
副長は、おれのキュートなはずの仕種までディスってくるではないか。
ったくもう、どんだけ自分に自信があるっていうんだ?




