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無鉄砲な子どもたち

 江戸に逃げるようにして戻り、故郷に立ち寄った際、泰助ら日野出身の子どもたちはお役御免にしたわけである。


 が、市村も田村も日野出身ではない。


 それでも、泰助の両親や後援者たちのおおくが、かれらの面倒をみるといってくれた。養子に、と名のりでてくれた人もいた。


 それを断ってまで、市村も田村もついてきたがった。そして、局長も副長も連れてきたかったのであろう。なんやかんやといいつつ、すべての子どもたちがいっきにいなくなるのは寂しくなる。


 ゆえに、二人はここにいる。


 じつは日野出身の子どもたちも、市村と田村同様ともにきたがった。

 泰助なんて母親に会った瞬間、抱きついていたし、ずっとべったりくっつういていた。

 ほかの子も、それぞれの家族にべったりだった。


 当然である。まだ小学校から中学に上がる年齢や中学生くらいの子たちばかりなのである。

 現代のように、思春期でどうのこうのというのもあまりなさそうだ。


 みな、家族に会ってすごくうれしそうだった。


 それでも、かれらもまた日野に残ることを拒否った。


 かれらも、立派な新撰組隊士なのだ。


 そのかれらを説得したのが双子である。それでやっと、かれらは泣く泣く残ることを了承した。


 いくらみずからの意思でついてきたとしても、やはり子どもを戦場に連れてゆくのはどうなんだろう。


 副長だけではない。おれもそうであるが、大人のだれもがそう懸念している。


 だが、そんな大人の懸念など、二人にとってありがた迷惑でしかないにちがいない。


「呼びたいように呼べ」


 副長は、おれが副長のことを副長と呼ぶことをぶっきらぼうに許可してくれた。


 それにしても、えらいまた子どもらへのいい方とはちがうものだ。


「くそっ!そうだな。もっとはやくに手放すべきだった。江戸で法眼か金子殿に託すのがよかったんだろうよ」


 副長は、ぶっきらぼうにつづける。


 たしかに、松本法眼なら顔がひろい。人となりもよく、知人もしっかりした人ばかりであろう。かれ自身が会津に旅立つまでに、二人をひきとってくれそうな人を紹介なり、養子縁組をアレンジしてくれたにちがいない。


 それだけではない。五兵衛新田でも、そこの有力者の金子かねこや、村の人がぜひとも引き取りたいともちかけてくれた。


 おれも含め、かれらを手放したくない。その想いが、こうしてかれらをここまでひっぱってきている。


 いずれにしても、会津に置いていくわけにはいかない。会津ここはもう間もなく戦場になるからである。


 おそらくはこのまま仙台、それから蝦夷へ連れてゆくことになるだろう。


 それこそ、史実どおりにである。


「できるだけ側において、護るしかないだろうな」

「とはいえ、とくに鉄は怖いものしらずの上に無鉄砲なところがあるからな」


 蟻通がいうと、中島が苦笑とともにつづける。


「なにかあったのか?」


 副長が尋ねると、二人は同時に肩をすくめた。


 どうやら、宇都宮城から会津にいたるまでに、敵軍とニアミスがあったらしい。それをたまたまみつけたのが市村と田村で、もっとよくしらべようと勝手に敵軍に接近し、もうすこしで狙撃されるところだったらしい。


 偶然、隊士の数名が小便に林に入ってかれらの駆け去ってゆくうしろ姿をみかけ、あわてて追いかけたらしい。


 いやマジ、危なすぎる。

 それ以上に、ことなきをえて誠によかった。


 ゾッとしてしまった。


 蟻通から事情をきいて眉間に皺をよせたのは、副長だけではない。


 島田と俊春、もちろんおれの眉間にも皺がよっている。それから、野村の……。


 ってあいつ、いつの間にかいなくなってるじゃないか。


 ぜったいに風呂にいったんだ。ずいぶんと眠そうだった。腹がいっぱいになり、風呂に入ってからふっかふかの布団で爆睡するつもりにきまっている。


 あいつ……。


 やっぱあいつは、いろんな意味でしぶといし要領がいい。

 たとえ地球が惑星の衝突で木っ端微塵になろうとも、核戦争で人類が滅びようとも、あいつだけは生き残りそうだ。

 

「無論、おれと登とで叱った。だが、堪えているかどうか」

「おそらくは、堪えておらぬだろうよ」


 蟻通と中島は、再度同時に肩をすくめる。


「おれが叱ったとて、どこ吹く風だからな」


 副長が苦笑する。


「おれからも、っていいたいところだが……」

「承知いたしました。わたしが申しましょう」

「頼む、ぽち。おまえの申すことの方が、あいつらは素直にきくだろう」


 副長がみなまでいわずとも、俊春は承知している。頭を軽く下げつつ、了承する。


 たしかに、副長が怒鳴り散らすよりも、俊春がおだやかに諭すほうがよほど効果がありそうである。


才助さいすけには会ったか?斎藤といるのか」


 話題がかわった。みな、さして違和感なく気持ちをきりかえる。


 副長は、気まぐれなところがある。しかも、短気で悪い意味でマイペースである。


 自分の頭のなかに浮かんだことは、相手がだれであろうとその相手がどんな状態であろうと、一方的に方向転換するのだ。


 新撰組うちのおおくがそれをしっていて、慣れっこになっている。


 って、またにらまれた。


「いや、才助にもまだ会ってはいない。会津侯とともにいて、馬の面倒をみたり馬術を手ほどきをしていたが、いまは斎藤とともにいて、斎藤を助けているらしい」

「そうか……」


 副長は、ほっと溜息をついた。


 尾関や尾形同様、その無事をしって安心したのだ。



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