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またまたでました!副長の奇襲チート攻撃

 芹澤は浪士組として京に上り、局長たち試衛館派といっしょに京に残った男である。そして、新撰組の筆頭局長をつとめた。

 

 永倉とおなじ「神道無念流」の遣い手で、剣の腕はかなりのものであったらしい。しかし、素行が悪すぎた。ゆえに、暗殺されたのである。


 犯人は、長州藩士ということになっているが、実際には副長や原田、沖田らが暗殺したのである。


 永倉は、この暗殺劇からはずされたてしまった。

 なにも永倉が同門だから、芹澤にチクるのではないか、などという理由によるものではない。


 永倉が暗殺のメンバーにくわわることによって、かれ自身一生負い目を感じるのではないのか。あるいは、傷つくのではないのか。


 局長と副長は、そんな心配をしたからこそ、永倉をはずしたのではないのではなかろうか。

 

 つまり、思いやりによるものである。


 おれは、そう推測している。


「新八、ゆるしてくれ」


 副長は、永倉の拳を自分の額にあてたままつぶやくように謝罪する。


 あまりの意外な副長の行動に、おれだけでなく島田も利三郎も俊春も固唾を呑んでみまもっている。

 そして、永倉もまた、呆然とみつめている。


「ゆるしてくれ、というにはおそすぎるな。だが、ずっと謝りたかった」


 そして、さらにつづける副長。


「い、いや、やめてくれ、土方さん。あんたらしくない」


 めずらしく、永倉が狼狽えている。それはそうであろう。あの(・・)副長が、迷える子羊みたいに神妙に懺悔しているのだ。


 もっとも、子羊の毛皮をかぶった狼であるのだが。


「言の葉だけでは、おれがどれだけゆるしてもらいたいって思っているか、伝わらぬであろう?」


 まだつづくようだ。しかも、副長は泣いているのか、声がビミョーに震えている。


「なんだって?」


 永倉が不審げに問うた瞬間である。


 副長が片掌を永倉の拳からはなし、それを軍服の胸ポケットへつっこんだ。めっちゃはやい。それこそ、超神速レベルだ。

 かろうじて双眸でそれをおうことができた。それほどの速度である。


 永倉は、本能的になにかを感じ取ったらしい。すぐに右腕をひき、副長から距離をとろうとする。


 が、副長の左掌が、まだかれの拳を握ったままである。しかも、全身全霊、全力でもって握っているのか、かれはそこから拳を引き抜くことができないでいる。


「喰らいやがれっ!」


 副長の雑魚キャラのごとき叫び声が、静寂満ちる林のなかに響き渡る。


 その叫びと、胸ポケットへと伸びた左掌が翻ったのがほぼ同時であった。


「パフッ!」


 という軽い音とともに、永倉の顔面でなにかが炸裂した。刹那、永倉の頭部あたりでもうもうと粉っぽいものが舞った。いや、舞っているなんていうなまやしいものではない。枝と枝の間から射し込む陽が、その粉っぽいものを不気味に浮かび上がらせている。


「ひいいいいっくしゅん。ぶへっく、ぶっしゅん」


 途端に、永倉が咳き込んだりくしゃみをはじめた。


 すでに、かれの右掌は副長の左掌から解放されている。かれは、両手で頭髪や相貌かおを必死にはらい、粉っぽいものを落とそうと躍起になっている。


 呆然と眺めるしかないおれの鼻が、その粉っぽいもののにおいをキャッチした。


 すると、俊春と相棒の鼻もキャッチしたらしい。どちらもおなじように眉間に皺をよせている。


 うーん、やっぱクリソツだ。

 その二人・・表情かおが、どこからどうみてもおなじなのである。


 って、それはどうでもいい。


 このにおいだ。このにおいは、アレじゃないか……。


 おれの眉間にも、皺がよっているにちがいない。


 副長のチートアイテム、「胡椒爆弾」である。


 ってか、しっかり常備しているところが草すぎる。


 永倉が気の毒すぎる……。


 かれはくしゃみや咳を連発し、それにともない涙と鼻水をたらしまくっている。


「これは、ひどすぎる」


 島田の表情かおは、この世の罪悪をみせつけられているかのように悲し気にゆがんでいる。


 はたして、かれの表現するところの『ひどすぎる』というのは、副長の卑怯きわまりない奇襲攻撃のことなのか、それとも永倉の惨状のことなのか。

 あるいは、両方をさしているのか?


「はっはは!「がむしん」よ。新撰組一の剣士も、おれにかかりゃぁ牙を抜かれたわんこだな。おれはいま自身の頭のなかで、おまえを八度は斬り殺したぞ」


 副長はドヤ顔以上の表情かおで、たからかに宣言した。


 もはや、おれにかけるべき言葉はない。


 おれは副長のことを尊敬しているが、それはあくまでも現代で得た情報にもとづいての尊敬であることを、いまこの瞬間つくづく実感した。


「牙を抜かれたわんこ……」


 そのとき、俊春がおれの横でショックを受けたようにつぶやいた。


「ウウウウウウウウッ!」


 俊春とおれの間で、相棒がショックを受けたようにうなった。


 ってか、そこか?そこなのか?

 

 さすがは、兼定おいぬさまとその俊春むすこである。


「牙を抜かれてしまっては、耳朶も片方のもつかえぬわたしは、兄上にゃんこになにをされるかわかったものではありませぬ」

「ちょっ……。なにをとち狂ったことをいってるんです、ぽち?」


 めっちゃ動揺している俊春に、思わずツッコんでしまった。



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