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いまさらですが 新撰組のNO.1剣士は?

「そして、永倉先生。あなたは、全般をとおして活躍されます。その武勇伝のおおくが伝わっています。ゆえに、永倉こそが一番だと推す人もおおいのです。いろいろいいましたが、結局、おれのいたところでも新撰組一の遣い手はだれか、きめかねているってところです。いっそ、三人で勝ち抜き戦でもやっていただいていて、その記録をちゃんと残していてくださっていたら、そんな議論など不要だったんですけどね。あぁそういえば、御陵衛士の阿部あべさんが、明治期、つまりこのずっと未来さきにおこなわれる談話で、「一番に永倉、二番に沖田、三番に斎藤」と語るそうです」


 最後の阿部といのは、おねぇ派の元御陵衛士阿部十郎(あべじゅうろう)のことである。


 阿部は、おねぇが生きていることをしっている数少ない人物の内の一人である。


「へーっ、よかったじゃねぇか、新八。阿部のやつに一番っていってもらってよ。ふんっ!もっとも、阿部はおれの剣術はみちゃいねぇからな。談話とやらで誤った話を残しても仕方ねぇかもしれんがな」


 永倉がなにかいうよりもはやく、副長が鼻を鳴らしつつ嫌味をぶちかました。

 

 ってか、阿部が副長の剣術をみたとしても、三人の順位になんらかわりはないことはいうまでもない。


 それ以前に、自分の剣術の腕が、永倉、斎藤、沖田、この三碧と同等、いいや、それ以上だと盛りまくるって厚かましいにもほどがありすぎる。


 って、また副長ににらまれた。


「そうか……。だが、うれしいのかどうかは、正直わからぬ。阿部も後世の人々も、総司や斎藤をちゃんとみちゃいない上での評価だからな」


 だれかさんの斜め上をいきすぎてる妄想話をスルーし、そう謙遜する永倉がカッコいい。どっかの自意識過剰なイケメンに、ぜひとも見習ってもらいたいものである。


 って、またそのイケメンにらまれた。


「おっと、ずいぶんと話がそれちまった」


 永倉が、苦笑とともにちかづいてきた。分厚くこぶりな掌が、おれの頭上へと伸びてくる。

 俊春同様伸びてきているおれの髪がくしゃくしゃになるまで、なでてくれた。


「主計、しりあえてよかった。おまえの剣術はイケてるんだ。自信をもて」


 視線をあわせ、かれはにんまりと笑った。正確には、その頬を涙が伝っているので泣き笑いである。


「永倉先生……。お願いです。かんがえなおしてください」


 おれの頬も涙が伝っている。泣きながら、懇願してしまう。


「だから、泣くなと申しているだろう」


 かれは、昨夜同様指先でおれの涙を拭ってくれた。昨夜とたった一つちがうのは、かれも泣いていることだ。


「おまえのお蔭で救われた生命いのちは、一つや二つではない。いや、おまえだけではないな。ぽちたまの尽力もあってだ。おまえは、おおくの人間ひと生命いのちの恩人だ。それを忘れるな。なあに、また会えるさ。土方さん、魁、利三郎、ぽちたま、それからおまえ……。左之や総司や平助、斎藤だってそうだ。生きてりゃ、また会って馬鹿できる。史実などくそくらえだ。そうであろう?ひとまずは、従うふりをするだけだ」


 永倉は、おれの涙を拭った指先で自分のそれを拭った。それから、おれの相貌かおに自分の相貌それをちかづけると耳にささやいてきた。


「土方さんとぽちたまを頼むぞ」


 そして、おれからはなれてしまった。


「土方さん、総司や平助のこともかんがえてくれよ。とくに総司は、近藤さんっ子だからな。あんたまでどうにかなってしまったら、せっかく治るかもしれぬ病も治らぬかもしれぬ。自身のことより、総司のことをかんがえてやってくれ」


 永倉は、もう一度副長にちかづいた。それから、握り拳をつくり、それをゆっくりとあげた。


『ビュッ!』


 拳が空をきる。つづいて、


『バシッ!』


 それがなにかにあたった音がつづく。


「くそったれ!新八、掌の骨がばらばらになったじゃねぇか」

「ふんっ!ちゃんと手加減はしたさ、土方さん」


 永倉の拳による一撃を、副長は掌で受け止めたのである。


 副長の眉間に、幾筋もの皺が深く濃く刻み込まれている。


 それは、痛みによるものだけではない。いろんな感情や葛藤のあらわれなのだ。


「これで、すべてのわだかまりが帳消しになった。すくなくとも、おれのなかでは、もうなにも思い残すことも迷いも疑いもない」


 永倉が静かにいう。


「新八……」


 副長は、自分の掌のなかにある永倉の拳に、もう片方の掌をそえた。それをそのまま自分の相貌かおへとちかづける。


 一瞬、「ゴッド・フ〇ーザー」的に、永倉の手の甲にキスでもするのかと思ったてしまった。しかし、ちがうようだ。


 ちなみに、その映画のなかでドンの手の甲にキスをするのは、ドンに忠誠を誓う、という意味である。

 しかし、あの名作が公開された1970年代前半、本物のマフィアにそういう習慣はなかったらしい。ところが、あの名作をみたマフィアたちは、「超カッコいいじゃん」ってことになった。それで、自分たちもするようになったらしい。


 創作が、現実になったわけである。


 そんなトリビアはいいとして、おれのドンは、永倉の拳にキッスするでもなく、額にあててじっとしている。永倉も、されるがままになっている。


 ときにすれば、数十秒ってところであろう。


 副長……。


 さきほど永倉がいった、「すべてのわだかまりが帳消しになった」というのは、芹澤鴨せりざわかもの件にちがいない。


 副長は永倉の拳を額にあて、そのことについてかんがえているのだろうか。





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