握手かハグを要望す
もっとも、現代では「コンクリに詰めて港に沈めたる」なんて表現がある。
じつは、コンクリに詰めるのはバレるもとである。同様に、土を掘ってコンクリで埋めるのも同様である。
人間は、腐敗するとガスが発生する。そのガスが強力なのである。コンクリを割ったり、亀裂をいれるほどのパワーがある。
それでバレてしまうわけだ。
殺人や死体遺棄をバレないようにするには、アスファルト合材がいいらしい。砂利やコールタールなどを、約三千度の熱処理をほどこし混ぜて仕上げるのである。そこに遺体を遺棄すれば、なーんにも残らないという寸法である。なぜなら、肉や骨、すべてを消し去ってしまうからである。しかも、そのアスファルトを道路に敷き詰めてしまえば、警察ももうお手上げである。
って、死体遺棄講座をしている場合ではない。
「ってか永倉先生、いまのひどくないですか?」
いまだ俊春の頭をなでている永倉の背に、問いかけた。もちろん、これは場の雰囲気をよくするためのお笑い的演出である。
「主計、かたいことを申すな。名がでてくるだけまだマシではないか。なかには、一生かかっても名すらでてこぬ者もいるのだ。それどころか、存在すら感じられぬ者もいる。名がでて称讃されるほうが、よほどマシであろう?」
「ちょっとまってください。その持論、たしかにそうかもしれません。ですが、称讃されてはいませんよ。めっちゃ身の危険を感じる内容じゃありませんか」
「どうでもいいようなことを気にするものではないぞ、主計」
「そうだそうだ!アイ・シンク・ソウ・トゥー」
まったくもうっ!
永倉の屁理屈はさることながら、それに野村が同調してくる。
「よしっ!主計、おまえとはこれでいいな」
「はい?『これでいいな』って、まさか別れの挨拶のことをおっしゃってるんじゃないでしょうね?」
しかも、いまのいい合いが別れの挨拶?
「永倉先生。いまさらですが、おれは以前からあなたのことも尊敬しているんです。おれのいたところでは、新撰組ファン、つまり信奉者だけでなく、歴史好きがおおぜいいます。よく取り沙汰されるのが、「新撰組で一番の剣士はだれか?」というものです。おれはずっと、永倉先生、それはあなただと思っています。そして、幕末にきて、思っていたことが間違いないと確信したわけです。ですから、せめて握手くらいしてください。あっ、ハグだったらもっとうれしいかも……」
「おま・・・・・・。愛の告白にしちゃぁ、ずいぶんともってまわったいい方だな」
「わーお!カミングアウトだ」
おれがいいおわらぬうちに、副長と野村が茶々を入れてきた。
「ならば、副長のことはどこを尊敬しているというのだ?伊庭君のことは?おねぇのことは?」
好奇心旺盛な永遠の少年島田が、とんでもないことをきいてきた。
「なっ・・・・・・。なにをおっしゃるんです?だいたい、おれがなにかいうと、なにゆえBLに結び付けるんです?愛の告白でもカミングアウトでもありません。それに、八郎さんのことは永倉先生同様に剣術の腕を尊敬していますし、副長は……。剣術はうーんですが、兎に角その生き様を尊敬しているんです。おねぇにいたっては、まったく、まーったく関係ありません」
てんぱりすぎて、肩で息をしてしまっている。
正直、ドツボにはまってる感がぱねぇ。
「それで、おまえ以外の信奉者たちはどう思っている?」
焦燥に焦がされまくっているおれの眼前で、永倉が冷静に尋ねてきた。
かれがなにをきいているのか、即座に理解できなかった。
「はい?なにを思っていると尋ねてらっしゃる……」
「斎藤と総司とおれ、だれが一番だって思っているってきいてるんだよ」
「あっ、そこですか?」
意外だ。永倉は、そういうことをあんまり気にしなさそうなのに。
ってか、別れのときをすこしでも引き延ばしたがっているにちがいない。そう直感した。
なぜなら、それはおれも同様だからである。
「そうですね。沖田先生は、「三段突きの沖田」として有名です。「池田屋」以降、病で戦線を離脱しています。そのため、大活躍の場がありません。ですが、沖田先生こそ新撰組一だと推す人はおおいです。斎藤先生は、表立った活躍よりかは暗殺といった裏の活躍が伝えられています。ですが、会津で最後まで戦うことや、明治期、つまり、このずっと後の戦でも活躍されます。そのため、斎藤先生こそ一番だと推す人もおおいです」
そこで一息入れた。
 




