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永倉の誘い

兼定様・・・には、いまから食後の腹ごなしをしていただこうと思うのだ……」

「ぶっちゃけ、ピーとプーだ」


 またしてもマジにいう俊春にかぶせ、現代っ子バイリンガルの上に下品きわまりない野村が、餓鬼みたいに叫びつつうれしがっている。


「やめないか、利三郎。ったく、餓鬼みたいにうれしがるなよな」


 幼稚園の先生のごとく、毅然と注意してしまった。


「ピーはですね、それからプーはですね」


 野村のやつ、きいちゃいない。ケラケラ笑いながら、島田に解説している。


「薩摩の蔵屋敷で申していたな。よし、インプット(・・・・・)したぞ」


 なんと、島田が指先で頭をたたきながら神対応している。


「副長、この旅籠の湯はよさそうです。客の姿もなく、いまなら一番風呂かもしれませぬ。旅塵を落とされてはいかがでしょうか」


 俊春は、廊下にさっさとでてからそこに片膝ついてすすめている。


「おお、いいな……」

「ワオッ!ウィ・アー・スメルズ・ソー・バッド!さすがに、超絶くっさーって感じですよ。副長、背中を流します。ゆきましょう」


 副長のよろこびの声にかぶせ、さらにうれしそうな表情かおの野村が、ピーやらプーやらの話題はそっちのけで、俄然はりきりだした。


 ちぇっ!野村のやつ、風呂など好きじゃないくせに。


 ヨイショってやつか?


 そう野村に腐りつつ、自分の腕をあげて小者用のコスプレの衣裳のにおいをかいでみた。


 うううううっ……。


 くさすぎるー。

 

 おれの表情かおは、フレーメン反応みたいになっているにちがいない。


「く、くっさー」


 それから、声にだしてしまった。


「たしかに、これはひどいな」


 永倉も島田も同様に、わがにおいに顔をしかめている。


「ならば、一番風呂は土方さんと利三郎にゆずって、おれたちはぽちと兼定とそこらをあるいてからひとっ風呂浴びるとしよう」


 永倉のいきなりの提案である。それからかれは、副長がなにかいいかけるまえにさっさと部屋をで、廊下に控えている俊春をうながす。


「なにをしている。魁、主計、ゆくぞ」


 そう声をかけると、廊下をあるいていってしまった。


「組長は、あいかわらずせっかちですな」


 島田は苦笑しつつ、副長に一礼してからあとを追う。


「では副長、いってまいります」


 廊下に視線を向けている副長に声をかけた。

 すると、その視線がおれへと転じる。


「主計……」

「はい?」


 しっかりと視線それがあった瞬間、副長がおれの名を呼んだ。


「いや、いい。いってこい」

「なんなんです?おっしゃりかけてやめてしまうなんて、副長らしくありませんし、気になるじゃないですか」

「生意気いってんじゃねぇよ、主計。ほら、さっさといってこい。おいてゆかれるぞ」

「もう、理不尽なんですから」


 苦笑してしまった。

 ぜったいに、なにかいいたかったにちがいない。


 立ち上がってからまた副長をみると、副長は視線を廊下へと戻している。


 いいや。廊下へというよりかは、だれかの背をおっているって感じであろうか。


「はいはい。気になりすぎて仕方がないですが、いってまいります」

「主計、アイム・ルッキン・フォワード・トゥー・スべニア」

「なんで土産を買ってこなきゃならないんだ?もうどこの店もしまっているだろう」


 副長は、おれの嫌味をスルーしたらしい。そのかわりに、現代っ子バイリンガルの野村が「土産を買ってこい」なんていってきた。


 そのかれにいい返してから部屋をでた。さりげなく振り返って部屋のなかをみると、副長はぼーっと廊下のなにかをみつめている。


 なにをいいたかったんだろう。


 モヤモヤしつつ、永倉たちを追った。


 永倉たちに追いついたのは、相棒を連れ、宿場町の通りをあるいているところであった。


『相棒を連れ』、というのは、俊春が相棒の綱を握ってという意味である。


 しばし無言のまま、宿場町のはずれへとあゆみつづける。


 通りの両脇に旅籠が並んでいるが、営業しているところでもひっそりとしている。呼び込みやら飯盛り女の誘いがまったくない。


 宿場町の人々も、いまこの世のなかに起こっていることを察知し、肌に感じているのであろう。

 

 とはいえ、現実的なところでは、お客さんの宿泊がなければ稼げないし、そもそも旅人の数が減っていては、宿場町じたい影響を受けているだろう。


 戦はいろんなところにいろんな意味で影響を与える。もちろん、それで儲かったり潤ったりという職種や機関というのもあるだろう。が、そうでないケースのほうがはるかにおおいはずだ。


「でてくるときに、副長の様子がおかしかったんです」


 あまりにも無言がつづいている。とりあえずなにかいっておかねばと、うしろからそういってみた。


「ああ、そうだろうな」


 先頭をゆく永倉が、ただ一言そう応じた。

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