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半次郎ちゃんに未来を告げる

 って、また副長ににらまれた。プラス、思いっきり肘鉄を喰らわされた。


「たしかに、腕はそうやろう。じゃっどん、ぽちはそげんこっはしもはん。ないごてなら、あたがそいをよしとせんでじゃ、土方どん。あたが命じんかぎり、ぽちがおいどんに指一本ふるっことはぜってにあいもはん」

「まいったな。また一本取られた」


 副長は、苦笑しまくっている。


 副長が命じぬかぎり、「狂い犬」はけっして半次郎ちゃんに害をなすことはない。そして、副長自身がそれをよしとしない。


 半次郎ちゃんは、ただの凄腕の人斬りってだけではないんだ。

 人間ひとの本質を見抜き、その洞察力はパネェッてことだ。


 だからこそ、西郷に最期まで信頼されて側につき従えるわけだ。


 もっとも、負けず嫌いの副長は、勝負にかんしてはなりふりかまわずチートさを発揮してくれるが。


 そのとき、副長がアイコンタクトを送ってきた。同時にあゆみがとまった。イケメンをわずかに背後へと向ける。


 またにらまれるかとあせったが、ちがうらしい。


 どうやら、おれと俊春に意見を求めるのか、あるいは同意をしてもらいたいのか、そういう素振りである。


 その副長のアイコンタクトのもつ意味は、かんがえるまでもない。

 

 なぜなら、おれ自身もおなじ想いであるからだ。おそらく、俊春も同様であろう。


 ゆえに、ソッコーでうなずいた。もちろん、俊春もうなずいている。ついでに相棒もうなずいている。


「半次郎ちゃん。これは、おれたちの荒唐無稽な世迷言と思ってきいてくれ」


 副長は、俊春とおれのうなずきにうなずきを返してきた。それから、おなじように立ちどまっている半次郎ちゃんへと体ごと向き直ると、そうきりだした。


 マイ懐中時計では、もう間もなく丑三つ時にさしかかろうとしている。

 

 この時間帯は、現代でも住宅街だと夜更かしさんや勉強をしている学校ゆきをのぞいて、照明が灯っているのはちらほらであろう。ましてやこの時代、こんな時間まで起きているとかウロウロしているのは、泥棒などの悪人か刺客くらいであろう。

 

 もしもいま、なにかにゆきあうとすれば、それは生きているもの(・・)ではないかもしれない。


 それは兎も角、半次郎ちゃんは、副長の話をポーカーフェイスを保ったまま最後まできいていた。


 内容は、じつにシンプルである。


 主計は、いかがわしい予言をやって稼いでいた。一方で俊冬と俊春は、ちゃんとした予言を神から授けられる神使の力をもっている。その三人が、西郷さんの将来さきを案じている、という内容である。


 くそがつくほど真面目なおれが、なんでいっつもいかがわしい予言者って役回りなのか?

 

 そこはこの際、保留にしておこう。


「まぁ信じちゃもらえぬであろうが、神のお告げってやつだ。いますぐどうのこうのってわけじゃねぇ。だが、このさきいろいろあるだろう。十二分に気をつけたって損はねぇ」

「では、こん戦は?神は、こんいくさの勝敗はどちらが勝つと告げちょっと」


 これだけ静かすぎると、だれもがフツーの声量で言葉をつむぎだすのがはばかれるらしい。副長も半次郎ちゃんも、ささやき声になっている。


 ふと夜空をみあげてみた。欠けた月が、こちらを呑気にみおろしている。

 

 東京二十三区内ではぜったいにみることのできないたくさんの星々が、やけにリアルに輝いている。


「この戦?それだったら、神に告げてもらう必要なんざねぇ」


 副長のイケメンに、笑みがひらめいた。苦笑、ではない。心底、おもしろがっているというような笑みである。


「ないごてこげん話をおいどんに?」


 半次郎ちゃんの疑問は当然である。だれだって当惑するだろう。


 どうやらかれは、神のお告げを信じていないわけではないらしい。信じていないのではなく、その逆であろう。信じているからこそ、なにゆえ敵であるおれたちがわざわざ忠告するのか?そのことにたいして疑問をもっているようである。


「正直、わからぬ。なにゆえか、伝えなきゃならねぇって思ったんだ。もしかすると、西郷さんがかっちゃん、否、近藤さんに似ているからかもしれねぇ。あるいは、よくしてもらったからかも……。こういうこたぁ、言の葉にしにくいもんだ。もっとも、突拍子がなさすぎるし、まだまださきの話だ。すべて信じろってほうがむずかしいだろう」


 副長は、そういってから両肩をすくめた。

 そのちょっとした仕種一つとっても、めっちゃカッコつけてる感がある。もしかすると、自分では気がついていないのかもしれない。

 

 これらすべてが、一つ一つ緻密に計算されつくされている結果の仕種なのだとしたら?

 

 正直、めっちゃひいてしまう。

 

 いくら最高最強のイケメンであろうとも、かっこつけすぎだし、それ以上にナルシストすぎる。


「んーにゃ。信じちょらんわけじゃなかとじゃ。ないごてなら、心当たりがあっでじゃ」


 半次郎ちゃんはいったん言葉をきり、一瞬躊躇したようにみえたがまた口をひらけた。





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