驚愕の連続
原田と林、相棒で、先日、河上ら刺客に襲われた現場に向かう。
二度目に襲われた、すなわち、おまささんの実家から帰る途中のほうのことである。
「土方さんに、こってりしぼられちまったぜ」
原田は、そこにいたる道中ずっとくさっている。
「組長、それをいいたいのはわたしの方です」
林もまた、くさっている。
「だいたい、わたしはそこにすらいませんでした。襲われたときいたのは、その日の夜のことです。それなのに、「組長の不手際は、伍長、おめぇにも責がある」って・・・。副長の眉間の皺が深すぎて、まともに顔をみることができませんでした」
「ええっ、そんな無体な・・・。それで、みつからなかったら、原田先生だけでなく林先生にもお咎めが・・・?」
肩を並べてあるく二人に、視線を送る。おれが左端で、相棒はいつもの位置であるいている。
このなかで、剣士はおれ一人。
槍術家の原田と柔術家の林は、左側にだれかがいることに頓着しない。
「いやいや」
林は苦笑する。
「副長のいつもの策だよ。原田組長を、助けてやってくれってこと。島田先生も、永倉組長のことで、この策をさんざんつかわれている」
なるほど・・・。副長らしい、と思う。
永倉と原田。副長にとっては、ほかのだれよりも付き合いがながく、信を置ける二人、である。おおっぴらに頼めないことも、それぞれの伍長たちにもっともらしく頼みこんでいる。
そして、そのことを、島田と林、伍長二人はよく解している。
「で、どうだ?」
原田が、周囲をみまわしながらたずねてくる。
あのときは、道ゆく人でいっぱいだったが、この宵の口、人通りはほとんどない。
そして、お目当てのものも・・・。
「正直、難しいですよ。いや、残念ですが、追うことはできません。時間が経ちすぎているし、範囲が広すぎる。なにより、往来はにおいがおおすぎる」
両方の肩をすくめながら応じる。
「だってよ、主計。おまさの実家では、うまくみつけてくれただろう?あのときのほうが、時間が経ってたじゃねぇか、えっ?」
原田は執拗である。
また両肩をすくめてみせる。
「あれはおれ自身、推測できていたからです。それに、範囲も狭い。だいたい、どうして放り投げるようなことをしたのです?おれには、その方が不思議でならない」
思わず、くさってしまう。
足許で、相棒が同意の唸り声を上げる。
「はは、剣士にはわかるまい」
林が、組長をフォローする。
「われわれは、腰になにかをさす、ということだけで窮屈だ。ましてや、戦うときにさしたままなんてこと、動きにくくてとてもではないがやっていられない」
「そうなんだ、そうなんだ、林のいうとおり」
原田は、すぐさまのっかる。
自分を正当化するために。
「まぁそこは百歩譲るとしても、そのあと、なくなっていることに、どうして気がつかなかったのです?ふつう気がつくでしょう?」
また足許で、相棒が同意の唸り声を上げる。
奇妙な間。沈黙が、三人と一頭の間に下りる。
どこからか、遅い夕餉なのであろう、味噌汁のにおいが漂ってくる。そういえば、夕餉のまえに連れてこられた。
おまささんの実家には、おまささんを通じて談判してもらう、という約束をしてもらってから。
「だってよ・・・」
原田は、まるでいたずらがみつかった悪餓鬼のように不貞腐れ、草履の先で土を蹴りながら呟く。
「槍は納めねえ。せいぜい、戻って手入れ後に穂先袋に入れるくらいだ。おれは、それすらしねぇことがある。ましてや、刀など・・・。そんな習慣は、ねぇんだよ」
サプラーイズ!
あのとき、たしかにばたばたしていた。いや、そもそも、ばたばたしていようが落ち着いていようが、兎に角、原田は鞘に納めることなく、抜き身のまま屯所に戻ったことになる。
そしてなにより、放り投げた鞘がなくなっていることに、翌日の昼まで気がつかなかった、ということ・・・。
驚くやら呆れるやら・・・。
相棒が、また足許で同意の唸り声を上げる。