表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

839/1254

プーってなんぞや?

 結局そのあと、厨で相棒のするどい監視のもと、俊春と干し芋を炙ったのである。


 いまや相棒は、俊春と仲が良いというよりかは完全に保護者化してしまっている。「ぽち」という名のわが子を護ってる感が半端ない。


 こういうのを父性愛というのだろうか?

 

 厨の入り口でにらみをきかされているなか、おれは俊春にろくに話をふることができなかった。


 まえまえからきいてみたいことが多々あるというのに。


 それどころか、ヒヤヒヤものである。


 うううううっ・・・・・・。


 いざというとき、相棒はおれよりも俊春を護り、指示にしたがうだろう。

 想像すると、切なくなってしまう。


「いまの利三郎の言の葉は、どういう意味なのだ?」


 好奇心旺盛な永遠の少年島田が、干し芋をつまむ掌をとめずにきいてきた。


「ただの世迷言です」


 おれも掌をとめずにそう返した。相棒と俊春の関係についてはショック大であるが、それとこれとはまた別の話である。


 その相棒は、ちょこっとだけ俊春が干し芋をおすそ分けしてくれた。

 

 ちなみに、犬は腎臓病や心臓病など、一部の疾患を抱えている犬以外であれば、サツマイモの摂取は可能である。人間ひととおなじで、腸の動きを活発にし、皮膚にもいいからである。しかし、やはりその量はおさえたほうがいい。たしか、大型犬であれば1日に120g程度ならOKだったと記憶している。小型犬や仔犬だと、もっとすくなくなる。

 干し芋は、蒸して干しているため、甘みや成分が凝縮されている。与えていい量は、さらにすくなくなる。


「世迷言?」


 島田は、二個同時に口に放り込みつつ視線を野村へと向ける。


 現代っ子バイリンガル野村とそのマブダチ、って、死語か?ズッ友っていうのか?兎に角、別府は、「ピー」やら「プー」やらいって、幼稚園児みたいにおおよろこびしている。


(おいおい、ガチでガキだな、おまえら)


そう思わずにはいられない。


「気になっね。どげん意味かしろごたっじゃ」


 なんと、半次郎ちゃんまでしりたがっている。従弟がさわいでいるので気になるのだろう。


「しらなくってもいいことです」


 本当のことである。


「なんだと、主計?やけにもったいぶってるじゃねぇか。そこまでいわれりゃ、よけいにしりたくなるってのが、人の道理ってもんだ」


 でました、「キング・オブ・副長」。干し芋を頬張るその姿も、口惜しいがかっこいい。

 干し芋がこんなに似合うイケメンは、現代でもそうそういないはず。おそらく、であるが。


 現代っ子バイリンガルの野村とそのズッ友以外、全員がおれをみている。


「ですから、しったからといって、だれのためにもなりませんよ」


 これも本当のことである。


「そんなにしりたければ、本人にきけばいいじゃないですか。あるいは、ぽちもしっているはずです」


 おれに向けられている視線が、廊下で控えている俊春にソッコーうつる。


 なにゆえ、それを発した本人に問わぬのか?


 注目を浴び、俊春は気恥ずかしそうに廊下の板敷きに視線を落とし、さらに気恥ずかしそうに口をひらいた。


「通じがよくなる、と」


 ナイス、俊春。さすがである。めっちゃ遠回しの表現に、内心で快哉を叫んでしまった。が、それはかなりちいさかった。かれにもっともちかくにいる永倉とおれ、それから海江田にしかきこえなかったのではなかろうか。


「なーんだ、くそをひるってことか」

「くそをひりまっるてことじゃなあ」


 その二人の身もふたもない要約がジワる。


 一瞬、沈黙がおりた。同時に、霊が通ったのか、ラップ音が響いた。ドキッとしてしまう。


「馬鹿なことをいわせるんじゃねぇよ、主計っ!」


 そして、副長に理不尽にも叱られてしまうおれであった。



 干し芋も堪能し、そろそろ海江田がかえるという。そういえば、かれは一人でやってきたという。

 

 びっくりである。さすがに西郷も、それは危ないから、と苦言を呈した。って、西郷自身も護衛がすくないのにである。それは兎も角、その西郷の心配を、海江田は笑って応じた。


「軍議んこっを思いだすとち腹立たしゅうなっ。そうなっと、ちかっにおっ者にあたってしまうかもしれもはん。そんた、おいどんが刺客に襲わるっことよりも赦せんこっじゃ。じゃっで、おいどんな一人の方がよかとじゃ。じゃっどん、どうやらおいどんな自分の腕を過信しすぎちょったようじゃ。これからは、注意すっことにすっ」


 体育会系気質のわりには、部下には気をつかっているんだ。

 かれの意外な一面である。


「そいやったら、おいどんが送りもんそ」


 半次郎ちゃんが申しでた。が、後輩には頼りたくないらしい。


「おいどんな、青二才こにせに護らるっほど弱うはなか」


 ソッコー一蹴してしまった。


「それでしたら、わたしがまいりましょう」


 つぎに申しでたのは、俊春である。


「だったら、おれもゆこう」

「えっ?土方さんが?」

「えっ?副長が?」

「ええっ?副長がですか?」


 意外すぎる副長の立候補に、永倉と島田とおれの不信感もあらわな問いがかぶった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ