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『アルマゲドン』

 そのとき、副長の右脚許でお座りしている相棒と視線があった。


「ふんっ!」


 いつもどおりのツンツンっぷりだが、ツンツン度合いはいつもよりちょっぴりましであろうか。


 相棒に親指を立ててみせた。すると「ふふふふんっ!」って、いつも以上にツンツンされてしまった。


 調子にのるべからずってやつだな。


 つぎは、相棒の右側に立っている俊春に視線を向けてみた。すると、かれは無言のまま両掌をあげた。


 ハイタッチする。

 

 その無言の祝福は、おれにとってはかけがえのない讃辞である。


「ホワット・ザ・ヘル!アルマゲドン・イズ・ファイナリィ・ヒア」

「オゥ・マイ・ゴッド!」


 縁側で現代っ子バイリンガル野村とそのマブダチの別府が騒いでいる。


 おいっ、野村よ。おれの勝利は、この世界にアルマゲドンを迎えてしまうほどのできごとなのか?

 ってか、アルマゲドンなんてよくもしってるな。


『エア〇スミス』の『I Don't Want To Miss 〇 Thing』が流れるなか、宇宙飛行士の恰好をした『ブルー〇・ウィリス』が脳裏を駆け抜けていった。


『アルマ〇ドン』、あの映画は恰好よかった。


 って、そのアルマゲドンではないが、兎に角、失礼きわまりない。ついでに、別府もひどいじゃないか!


「いまのはどういう意味だ?アルマゲドンとは、喰い物か?」


 好奇心旺盛な永遠の少年島田が、おおきな相貌かおを右に左に傾けつつきいてきた。


 なんてこった。いくら発音が典型的な日本人の発音ものとはいえ、アルマゲドンをききとれたわけだ。


 島田よ。どんどん耳が英語になれていってやしないか?


 この分では、新撰組はもうじき商社っぽくアメリカやイギリスを相手に輸出入できるかもしれない。あるいは、通訳や翻訳の派遣を請け負うことだってできるかも。


「どうでもいいんですよ、島田先生。ただたんに、利三郎はおれに言葉の暴力をふるいまくっているだけなんですから」

「気になるではないか、主計。いかなるうまい物かをしっておかねば」


 ったくもう。これがまだティーンなら、「もうっ!喰いしん坊さんなんだから」って笑えるだろう。が、さすがにちょっとまえについに四十路に突入した島田だと、笑うには無理がありすぎる。


「島田先生。アルマゲドンとは、伴天連の終末論でございます。この世のおわり、というような意味でしょうか」

「よくご存じですね、ぽち」

「無論。われらは昔、伴天連の布教活動もしておったからな」

「ええっ、マジで?」


 さすがは双子である。異世界転生で神に仕える神官とか宗教家とかやってたんだろう。


「なんだ。つまらぬ」


 島田がぽつりとつぶやいた。


 なんてこった。島田にとっては、世の終末より喰い物のほうが重大事項らしい。


「兎に角、いまの主計の勝ちは、この世がおわりをむかえるレベル(・・・)で不吉だってことだろうが」


 副長が現代語をまじえつつ、しめてくれたっぽいけど、なんかモヤモヤするのは気のせいだろうか。


「ぽち、練習台になってやれ」


 副長は、まだ俊春が弱っちいという芝居をつづけるようだ。

 命じられた俊春は、途端におどおどとした表情かおで腰をおってへこへこしはじめる。小者姿なので、よりいっそうへこへこ感が強調される。


 かれも、芝居をつづけるらしい。


「みな様方の勝負のあとにわたしなど……。やはり、わたしは剣術は苦手でございます」

「仕方のねぇやつだ。なら、剣術じゃない方法で練習台になってやれ」


 副長の口から二度でてきた『練習台になってやれ』……。

 

 海江田の練習台になってやれ、という意味であるのはいうまでもない。本来なら、海江田の練習台になってボコられてしまえ、という意味であるが、副長が暗にいいたいのは、格上の俊春が練習台になってやることで、海江田の精神こころを鍛えなおしてやれ、という意味にちがいない。


 おそらく、であるが……。


 そして、俊春は無掌のまま副長に一礼し、西郷にも一礼をほどこした。

 それから、海江田に相対した。

 

「主計のときとは別の意味で緊張するな」

「ちょっ、どういう意味なんです、副長?」

「ぽちのは、どういう技がみられるかって緊張だ。おまえには、危なっかしいっていう意味での緊張だ。わかったか、ええ?」


 撃沈。いちいちもっともでございます。


 相棒も、「ふふふふふんっ!」っておれのことを馬鹿にしている。


「無掌?どげんつもりと?」

「たいしたことはごさいませんが、体術をすこしばかりかじっております。すくなくとも、剣術よりかはましかと。いかに海江田先生のお心がひろいといえど、まずすぎる剣術をおみせするのは無礼でございますゆえ」


 俊春がいつもどおり無掌で相対するのを、海江田の双眸には奇異に映っているらしい。


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