ここは何時代?
こ、このカツ丼は……。
クオリティがたかすぎではないか。
フツー、カツ丼にすれば、衣がたれや卵を吸収してふにゃふにゃになるものである。まぁ、たれを吸っていてふにゃふにゃどろどろ状態になっているところがいいっていう場合もあるだろう。
おれの場合は、たいていが弁当屋とかスーパーやコンビニで購入したものをレンジでチンすることがおおかった。ゆえに、そのふにゃふにゃ感は、「たれを吸ってて」なんてレベルではなく、もはや吸い尽くして衣は膨張し、たれはなくなっているということがおおい。
つくってからだいぶんと時間が経過したものではなく、できたてならうまいんだろう。
だが、あいにく店で喰うことはあまりない。どちらかといえば、カツ丼より親子丼とか木葉丼とか、そういったものを選んでしまう。
一方、これがカツカレーなら、絶対に頼んでしまう。「Co〇o0壱」とか「福島〇等カレー」とか、90%以上の確率でカツカレーである。
なんとも不思議な話である。
兎に角、俊春のカツ丼は、衣のサクッと感を残したままほどよくたれを吸っているのである。
これだったら、注文するのにカツ丼の選択もありだ。
人間は、真実をいいあてられるとキレるが、誠に美味なものを食したとき、言葉などでてこないものである。
グルメリポーターのように、「舌の上でまろやかにとろける」とか「口のなかで旨味とやさしさがハーモニーを奏でている」とか、でてくる余裕なんてない。まず、そんな表現すら思い浮かばない。
ただただ本能にしたがい、がっつくだけだ。
というわけで、おれも途中からは意識がぶっとぶほど喰うのに夢中になっていた。
麻薬とおなじである。
そうかんがえれば、双子の料理は常習性があるかもしれない。
一度喰ったら、その味や繊細さに魅了され、もっと喰いたいってなるのだ。
わかっている。いまのはしょせん、おれがメタボになりつつあるいい訳にすぎぬ。おれが喰いたいという欲望のあらわれである。
「足りぬな」
「ええ、組長。かようなうまいものをたった一杯でおわらせるのはもったいなさすぎます」
さすがは新撰組のフードファイターたちである。永倉と島田は、ものの数分で完食した。そして、おれとはちがう意味でもっと喰いたいという意思表示をしまくっている。
ふと廊下をみると、廊下に控えているはずの俊春がいなくなっている。
おかわり要求がでることをよみ、厨で待機しているにちがいない。
さすがは、できた男である。
「いかがですか、西郷さん?おかわりをもらってきますが」
そしてついに、フードファイターたちは行動にでた。その間数十秒である。決断からの行動がじつに迅速である。
「ミー・トゥー」
「ミー・トゥーん二乗じゃ」
西郷が口をひらくよりもはやく、現代っ子バイリンガルの野村とその弟子っつーかマブダチっつーか、兎に角別府が要求している。
「あああ?おまえらは、自身の脚で頼みにゆけ」
「ホワイ?」
「ビコーズ、おまえらはおれより年少で格下だからだよ」
「ホワイ?年少で格下だと、自身でゆかねばならぬのです?」
「あああ?おまえっ、おれに喧嘩うってんのか?」
野村のまさかのなぜなぜ攻撃に、なにげにバイリンガルの永倉がキレた。
「年功序列って古いし、それってパワハラっすよね?いまどき、そんな権威ふりかざしても流行らないっすよ」
ちょっ・・・・・・。口の右端から米粒が落ちてしまった。
野村、おまえぜったいに未来からきただろう?幕末で年功序列が古いって、未来はいったいどうなるんだ?
「なんだと、このモンスター隊士め。よそはどうかしらぬが、新撰組は古きよき時代を踏襲しているブラックな職場なんだよ。年功序列が正義だ。上に立つ者は、なんでも許されるんだよ」
ちょっ・・・・・・。つぎは口の左端から、とろっとろの卵がしたたり落ちてしまった。
おれ、もしかして現代に戻ってる?ってか、みんなそろって現代にタイムスリップしてる?ってか、永倉、あんたも未来からきたんじゃないのか?
思わず、副長をみてしまった。ここは、副長にしめてもらうしかない。
「シャット・アップ・ユー・ガイズ!」
オー・マイ・ゴッド!副長まで?
新撰組は、グローバル集団として海外展開できそうだ。
「すげねぇ、新撰組は。坂本さぁより異国ん言ん葉が達者じゃ」
「誤解です、桐野先生」
めしとカツを噛みしめながら感心している半次郎ちゃんに、思わずダメだししてしまった。
「西郷先生、桐野先生、いまのはちがいますので。これは、なにかの間違いです。ついこのまえまで、新撰組は着物に袴がフツーでしたし、銃や鉄砲などみむきもしなかったのです。この人たちは、ちょっと異国の言葉をしっているからってつかいたがる、うれしがりなんです」
口を掌の甲で拭ってからそれを拳にしてふりかざし、力説してしまった。




