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副長を毒殺

 ついついかんがえてしまうし、最悪なことにかんがえていることをよまれやすい。さらには本人、つまり副長ににらまれたり、なんかいわれたりすれば、びびらずにはいられない。

 

 副長のまえで度胸をすえられるくらいなら、いまごろ散歩係などしているわけはない。


 おれの幕末トリビアを駆使し、この時代で一世を風靡しているはず。で、あろう?


『警察犬のハンドラーが幕末にタイムスリップして新撰組の局長になり、無双しまくって歴史をくつがえし、天下をとってみる!』


 こんなタイトルでどうだろうか?


「みな様方、卵がかたまってしまってはおいしさが半減いたします」


 悪の元凶俊春は、なにもおこらなかったかのように調理にもどっている。


「おっと、そうだな。よしっ、できあがったものから運ぼう」


 ついでに永倉も、さっきの持論などなかったかのように、納戸から膳をもってきてセッティングをしはじめた。


 ちぇっ・・・・・・。どうせおれは、いじられてなんぼの主計ですよ。


 くさりつつも、正直それがうれしくもある。

 

 あっいや、とうとうドMになってしまった、というわけではない。永倉もふくめて、こうしてかまってもらえるのが幸せに感じるのである。

 って、それがある意味ではドMになるのか?


 永倉と島田と三人で、カツ丼とみそ汁と香の物がのった膳を抱えて運んだ。

 今朝、篠原とともに何度も往復した廊下と部屋を通ってゆく。


 あるきつつ胸元の膳をみおろすと、箸が箸置きにちゃんとのっている。

 

 永倉は、ちゃんと箸置きまでみつけだして準備したのである。

 がさつな感じがするのに、けっこう几帳面であることに、すくなからず驚いてしまう。


 蔵屋敷ここのことは、最初にすごした部屋と厨しかしらないが、兎に角、最初の部屋に、すでに西郷と半次郎ちゃん、副長がまっている。

 

 どうでもいいが、現代っ子バイリンガルの野村と「薩摩藩の野村」こと別府も、下座で並んで談笑している。


 どうやら、警備兵たちの采配はおわったらしい。


「お食事をおもちいたしました」


 永倉は、五つ星ホテルのボーイのごとく丁寧に断りをいれてから、で襖をがっと開けた。

 

(おいおい、脚でなんてことするんだ?)


 って、「がむしん」にツッコミをいれるほど、おれはいろんな意味で強くはない。


「よかにおいなあ。土方さぁからきいちょっじゃ。愉しみで仕方があいもはん」


 西郷は、上座で胡坐をかいている。その相貌かおは、室内にあるいくつかの燭台の灯りより何Wもあかるく輝いている。


「おまたせいたしました」


 永倉が西郷に、島田が半次郎ちゃんに、おれが副長に、それぞれのまえに膳を置く。


「毒など入っておりませんので、ご安心のほどを」


 永倉は、笑いながら物騒なことを告げる。


「西郷さんや半次郎ちゃんのには、そうだろうよ。もしもそれが入っているとすれば、おれんところだ。なぁ、主計?」

「ちっ・・・・・・。なにゆえバレたんです、副長?」


 副長のジョーク、たぶんジョークなんだろうけど、兎に角、ジョークにはジョークで返すのが関西人のマナーである。そうでないと、「ノリが悪すぎる」認定をされてしまう。それはKYにもつながり、職場の環境と調和を乱して悪くするばかりか、自分自身の居場所をなくしてしまうことになりかねない。


「即効性ですので、苦しまずに逝けるかと」


 ノリのいいおれは、さらなるジョークをサービスすることも忘れない。


 副長と視線があうと、そのイケメンに笑みが浮かんだ。眉間に皺はまったくない。


「西郷さん。あいにく、兼定を譲ることはできないが、散歩係ならいくらでも譲れる。否、譲るというよりかは、熨斗をつけて献上したい。西郷さんの犬の散歩をする役くらいなら、かろうじてできるでしょう」


 副長はおれをみつめつつ、笑顔のままで西郷に提案するではないか。


「副長?」


 ノリが悪いっすよ。っていいかけた瞬間、副長の眉間に何本もの皺が深く濃く刻まれた。


「おれを毒殺しようなどと、百年はええよ」


 そ、そんな・・・・・・。


 西郷と半次郎ちゃんが笑いだした。


「相馬君は、まっこて好かれちょるんじゃなあ」


 西郷は笑いながらいってくれたが、なんかその解釈はちがうかもしれない。


 すごすごと厨へ戻ると、永倉と島田、野村と別府がいつの間にかきている。各自、自分の分をもち、また部屋へ戻った。


 俊春は相棒の分をもち、相棒とともに庭へゆき、俊春自身はだれかがおかわりするのに備え、縁側にあがってそこに控えている。


 相棒のは、ネギ抜きで卵すくなめのカツとつぼ漬けたっぷりにしてくれたようだ。


「いっただきます」


 全員でいただく。


 って思う間もなく、俊春が静かに立ち上がった。


「警備兵の方々の様子をみてまいります」


 副長に告げると、去っていった。


「西郷さん。ちなみに、ぽちはなにがあっても渡せねぇ。たとえ、此度の戦に勝たせてくれるっていわれてもな」


 副長ーっ!まだ嫌味いってるし。


 しかし、その嫌味も耳に入らなかったらしい。


 西郷は、ってか西郷だけでなく、全員が一心不乱に喰っているからである。

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