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主計 駕籠を担いでみることに

 軍議の場である商家から、各藩の将兵たちがぞろぞろとでてきている。


 もちろん、そのなかに西郷や半次郎ちゃん、ついでに海江田もいる。


 三人・・で無言のままあるいてゆくと、借り物の駕籠のちかくで西郷たちが立っている。そのまえで将官らしき男たちが数名、ぺこぺこと頭をさげている。


「お詫びのしようもござりませぬ」


 男たちは、そろって白色の腕章を腕につけている。

 どうやら、長州藩の士官らしい。


「まっこて、詫びてすん問題じゃらせんね」


 海江田は、ソプラノボイスで怒鳴り散らしている。激おこぷんぷん丸状態である。


「どうやら、軍議中になにかあったようですね」


 俊春にならんでささやくと、かれはおれをよんだ。

 一つうなずいてから口を開ける。


「「でこぴん野郎」の効力も、ご本人の辛辣なご意見にはかなわぬらしい」


 苦笑が添えられる。


「つぎもこげん調子なら、わが藩は勝手にやらせてもらうど」

「武次どん、もうやめたもんせ。あたも口がすぎる」


 海江田が腰に掌をあてて居丈高に吠えまくるのを、すかさず西郷がなだめにはいる。


 長州藩の士官たちは、恐縮しまくっている。そして、かれらはちがう藩の士官たちのところに移動していった。毎回、こうして各藩の要人に謝罪しまくっているのだとしたら、いまの士官たちはクレーム対処専門の士官みたいなものだ。

 あまりにも気の毒すぎる。


「まっちょってくれたんと?」


 半次郎ちゃんがおれたちの気を感じたのか、振り向いて尋ねてきた。


「推してしるべし、ですな。主計、途中まで駕籠をかつぐ自信はあるか?」


 俊春は、半次郎ちゃんに両肩をすくめてみせた。それから、こちらに横顔をみせてきいてきた。


「そうですよね。清原さんがまだあそこにいらっしゃって、副長たちがおれたちとおなじルートを、もとい、おなじ道をたどればみつかってしまいますね。わかりました。気合を入れてがんばります」


 俊春は、そのおれの答えに苦笑した。それから、士官服の内ポケットから矢立とちいさな紙片をとりだし、すばやく書きつけ、紙片を相棒の首輪に結び付ける。


 その革製の首輪は、俊春自身が細工してつくってくれたものである。


「主計」

「え?あ、はい」


 俊春は、おれに気を遣ってくれているのだ。


「相棒、副長にダッシュでメモを届けるんだ」


 両膝を折って首輪から綱をはずしつつ、相棒に指示をだす。


「ゴー!」


 相棒は号令以下ダッシュし、あっというまにちいさくなった。


「利口な犬じゃなあ」


 海江田は、大村にたいする怒りも忘れて感心しきりである。


 その海江田とは、そこで別れた。小隊を連れてきているため、いったんは自分の宿所にもどるという。夜、あらためて蔵屋敷を訪ねるらしい。


 そういっている最中でも、かれが俊春を意識しているのが感じられる。それは、西郷も同様らしい。しかし、西郷もくるなともいえず、「まっちょっ」とビミョーな表情かおで応じた。


 それで、副長たちとのまち合わせ場所に、向かうことになったわけで・・・・・・。


 副長や永倉は、江戸をしりつくしている。適当に道をかえ、まち合わせ場所にやってくるはず。そのまち合わせ場所も、ここからそう遠くはない。きたときに通ったところである。


 ゴールがわかっていれば、なんとかがんばれる。

 そう自分にいいきかせ、気合をいれまくる。


「大丈夫なんか?おいどんがかつぐじゃ」


 半次郎ちゃんも、心配してくれている。

 が、これ以上、ヘタレって思われたくない。おれにも一応、意地やプライドがある。


「大丈夫です。昔、人力車の車夫をしていたことがあるんです」


 それは、真実である。けっして嘘ではない。ただ、時代がちがうだけである。

 150年後の京都で観光客を乗せていた、なんてこといえるわけもないが。


「そうやったか。わかった。つかれたや、いつでんかわっじゃ」


 半次郎ちゃんは、「人力車と駕籠ではぜんぜんちゃうやないかいっ」ってツッコむことなく、そういってくれた。

 

 かれは、意外とやさしいんだ。


 ってか、薩摩こっちのほうが、人当たりがやさしくないか?って、マジで思ってしまう。


 そのとき、駕籠をはさんだ向こう側で、俊春がこちらをじっとみつめていることに気がついた。

 

 しまった。よまれてしまった。かれのことだ。きっと、いや、ぜったいに副長にチクるはず。


「腰を入れ、担ぎ棒は肩のまえ部分で担ぐのだ。支えるのは腰と両膝。掌は支えるだけでいい。上半身ではなく、下半身で運ぶのだ。おぬしは、脚さばきがうまい。ということは、下半身が安定しているということだ。気のもち方一つで、いかに重い駕籠であろうが荷であろうが、体躯に負担をかけず、つかれさせず、いくらでも運ぶことができるということだ」


 俊春は、これ以上にないというほどの笑顔でアドバイスを送ってくれた。


 かれにそういわれると、ぜったいにできると確信してしまう。


 アドバイスどおり、担いでみる。なるほど、蔵屋敷でからの駕籠を担いでみたときより、ずっとラクに感じる。しかも、西郷がのっているのにである。


 そして、まち合わせ場所に向かって出発した。

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