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異色すぎるタッグチーム

「ちぇっ!おれはこれでも、「理心流」の目録だぞ」


 軍靴のさきで砂を蹴っていじけている副長が、ちょっとかわいい。


 ちなみに、その副長の目録であるが、「天然理心流」の第三代目宗家が、副長にやる気をださせるために授けたボーナスポイントだったとか。


 副長は、その真実を局長からきき、ずいぶんとショックを受けていた。


 それは兎も角、副長の超絶チートなは、正直勘弁してもらいたい。

 

 なにせ、せっかくのチャンスなのである。この浜辺での出来事は、いい思い出として残しておきたい。


 って、そんなことをかんがえている間に、俊春のジャンプが唐突にとまった。ウオーミングアップは、終了ということであろう。

 それからかれは、ゆっくりと三歩、こちらに歩をすすめる。


 いつもどおり、最初は無手で戦うつもりにちがいない。


 うしろで、だれかのうめき声がきこえたような気がした。


 たしかに、うめき声を発したくなる。


 なぜなら、俊春がやけにおおきく感じられるからである。


「くそっ」


 永倉が、おれの横で毒づく。


「愉しくやろうって申してみたものの、がらにもなく緊張しちまっている。余裕など、まったくなくなっちまった。なんだあれは?また強くなっているように感じられると申せばいいのか、成長しているのではないのかと表現していいのか、兎に角、まえには感じられなかった凄みがある」


 残念ながら、永倉とおれとでは、経験も実力も天と地ほどの差がある。ゆえに、永倉がいまいったほど、おれにはそれらを感ることはできない。

 おれも強くなっているとか、成長しまくっているわけではないのもまた、残念でならない。情けないが、おれ自身は弱すぎるままだし成長もしていない。

 

 いや、それだけではないか。


 相手の強さを感じるセンサーが、お粗末きわまりないのかもしれない。


 とはいえ、そういわれてみれば、どことなくちがう気もしないでもない。


 俊春は、ここのところ地獄レベルにワークアウトをおこなっている。それのせいなのであろうか。それとも、兄貴がいなくなっても力がみなぎるよう、自分自身に暗示をかけているのであろうか。


 それ以上に、局長のことで精神的に強くなったのであろうか。


 頭を振り、気合を入れなおす。


 永倉のいうとおりである。愉しむことに専念すべきだ。

 この面子では、だれかさんをのぞいてはおれが一番弱いんだ。いい恰好をしたり、見栄をはる必要などどこにもない。


 そう結論付けると、すこしは気が軽くなった。


 踏みしめる砂が気持ちいい。


 そういえば、親父と海水浴にいった記憶がない。小学校のとき、一度だけ京阪沿線にある、「ひ〇パー」こと「ひ〇かたパーク」のプールに連れていってもらったくらいだ。


「ひ○かたパーク」は、枚方ひらかた市にある。現代で運営されている遊園地のなかでは、日本最古である。以前は秋になると、「大菊人形展」なるものをやっていた。その年の大河ドラマをテーマに、菊人形を展示していたのである。それもたしか、2005年くらいで終了したかと記憶している。

「大菊人形展」は、大阪の秋の代名詞の一つだったのである。


 それは兎も角、海水浴の経験があまりないため、砂浜で肌を焼いたりビーチバレーをしたり、なんて経験があまりない。ましてや、『ナンパ』、なーんてものも。


 こんな砂地で、どれほどの脚さばきができるのか・・・・・・。


 はやい話が、自分がどれだけ動けるか、まったくわからないということである。


「迷うな、ゆくぞっ」


 永倉は、そういうなり駆けだした。「手柄山」を振りかぶり、迷うことなく俊春の右側にまわりこんでゆく。

 

 右側そこは、右のの視力を失っている俊春にとっては死角になる。


 おれも駆けた。必然的に左側に向かって。おれも、「之定」を振りかぶった。


 俊春は、いまだ無掌のまま両脇にそれをたらしたままである。


 おれが半歩分遅れたとはいえ、ほぼ同時に俊春の遠間に入った。一足一刀の間合いに入るか入らないかまで迫ったとき、永倉の「手柄山」の剣先がかれの頭上から消えた。

 なんと、一瞬にしてその剣先が砂をかくほど低い位置に移動しているではないか。


 俊春からすれば、右下方からのするどい斬り上げである。が、おれはそれほど器用ではない。ってか、いまさら軌道修正するだけの腕はない。そのまま俊春の左上方から斬り下げるしかない。


 永倉には、わかっている。腕も経験もないおれが、左上方から斬り下げるしかないということを。ゆえに、自分は右下方からの攻撃を選んだのである。

 

 かれは、最初はなから左右、上下の同時攻撃を狙っていたわけである。


「・・・・・・!」

「・・・・・・!」


 またしても、とんでもない業が炸裂した。もちろん、炸裂させたのはおれではない。

 俊春にきまっている。


 かれは、左右上下から迫ってきた二振りの刀を、左右それぞれの指でつまんで受け止めたばかりか、倒立してのけたのである。それこそ、一瞬のことである。ゼロコンマ、てところか。

 

 俊春は、指でつまんだ二振りの刀を土台にし、たしかに倒立したのである。


 刹那、頬にするどい風を感じた。永倉とおれの間を、一本の白刃がはしった。その剣風である。


 なんとなんと、半次郎ちゃんである。倒立している俊春に向け、「兼定」でまっすぐ突いてきたのである。


 さすがは幕末一の人斬りである。

 俊春が倒立をして無防備の状態を逃さず、突いてきたってわけだ。


 だが、しかし・・・・・・。


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