藤堂との対話
こぶりの背を、みつめる。
月明かりの下、藤堂は小柄なんだな、とあらためて思う。
同時に、寂しそう、とも。
「危なかったね、相馬君?」
藤堂はあるきながら、振り返らず囁く。それから、ふふっとみじかい笑声をあげる。
「高台寺は、ひろくってね。夜、こうしてあるきまわってるんだ。新撰組にいたころは、夜は巡察さえなければ、新八さんや左之さんに連れられて島原にゆくか、屯所で呑んでたんだけど・・・。御陵衛士には、どうしても馴染めなくて・・・」
藤堂は、不意に言葉をきる。
林のどこかからか鳥の羽音がしたが、すぐに静けさを取り戻す。
「そうしたら、一君と坂井があるいているのがみえたんだ。坂井が伊東さんのお気に入り、というのはしっていたから。それが、一君とあるいているのっておかしいよね?だから、伊東さんがいつも坂井と会っているあの場所にいってみた」
そして、おれたちをみたということか。
おねぇと坂井が逢引きしていて、しかもその場所までしっていたっていうわけか。
それは兎も角、加納が探している、というのは?
「すぐに、月真院に駆け戻ったよ。それから、加納さんにこっそり教えてやったんだ。まずは、わたしがいってくるからといい、またこっちへもどってきた」
なるほど・・・。藤堂の機転に救われたのだ。
「藤堂さんも・・・。その、なんというか・・・」
ふと、尋ねてみたくなった。それから、しまった、と思う。
もしかすると、内容が微妙すぎたかもしれない。
「みんなは、そう思っているみたいだけどね」
藤堂は歩調をゆるめ、肩を並べる。
新撰組でつねに先陣きって戦っていたことから、「魁先生」と異名をもつ藤堂。かれは、思いのほか小兵である。こうして並んであるきながら、剣士としての威圧感というよりかは、敏捷性にすぐれている感がある。
すくなくとも、脚の運びや所作は、はっきりそう示している。
「みんな、というのは御陵衛士の連中のことだけど・・・。伊東さんは、なんでもいいってわけじゃない。利用できる、あるいは、自分なりの基準をみたした者としか、やらない」
「はぁ・・・」
そうとしか答えようもない。
やらない、というのは?やはり、アレ、のことなのであろう。
「わたしは、そのどちらでもないから・・・。江戸にいたころから、それはかわらない。そして、これからも、かわらない・・・」
藤堂のあゆみが止まった。ゆえに、おれも止める。
ちかい将来、かれは御陵衛士の一員として、新撰組に葬られてしまう。
「藤堂さん」
藤堂へ、体ごと向く。
「戻ってください。あなたは、ご自身でわかっているのでしょう?御陵衛士が、あなたのいる場所ではないということを。伊東さんや御陵衛士、それから、局長や副長、それに、永倉先生や原田先生。どちらの方が、あなたにとって大切なのです?」
無意識のうちに、かれの両肩を掴んでいた。華奢な肩を、はげしく揺さぶる。
「わたしは・・・。そうだね。おそらく、山南さんのことを理由に、新撰組から逃げだしたかったんだろう・・・」
内心で驚く。
逃げだしたかった、とは?いったい、どういう意味なのか?
かれはおれを上目遣いにみつめ、気弱に微笑む。
藤堂は、「今若」のようだとよく形容される。
月光の下、その形容詞が少女のような美しさのことなのだ、とつくづく実感する。
「平助?相馬君?」
木々の向こうから、斎藤のくぐもった声がきこえてきた。
裏門のちかくに、やってきていたようだ。
「土方さんたちに、よろしく伝えておいて。それと、ありがとう」
藤堂はおれの耳に口を寄せ、そう囁く。
藤堂の肩を掴む掌の力が弱まると、かれはさっと身をはなす。そして、そのまま踵を翻すと、木々の間へと駆け去ってしまう。
一人、裏門でまっている斎藤と坂井に合流する。
そして、坂井と二人、帰路についた。