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虚言

 藤堂は、おねぇのことを探していたのだという。


 ここにいてはいけない、というよりかは、いるはずのない坂井のことを、おねぇの片腕ともいえる加納かのうがみかけ、おねぇの部屋で苛苛しながらまっているという。


「まったく・・・。かれは、案じすぎなのです」

 おねぇは、嘆息する。が、まだ右の掌も左の掌はおれをさわりつづけている。


 そして、あいかわらず互いの相貌かおはちかすぎる。


「相馬君・・・」

 おねぇが耳に唇を寄せてくる。

 耳たぶを軽く噛まれたとき、マジで悲鳴を上げそうになってしまう。


 いっておくが、嬌声ではない、悲鳴だ。が、このときは、昔の血と意識が戻ってきた。


 おねぇの妖艶なまでの色気と美の下に、なにかがたゆたっていることを、経験と独特の感覚でよむ。


「もうすこし、我慢していてくれたまえ。もうじき、一緒になれる・・・」


 熱い吐息とともに意味深な言葉が、耳に流れこんでくる。


「いったい、どういう意味・・・」


 なにもわからないふりをし、囁きかえす。おねぇの気をそそらせる為、せいいっぱい媚びた視線と笑みをつくる。


 すると、おねぇはおれの下半身から掌を離し、人でも喰ったんじゃないかと思えるような、紅をさした唇のまえで指を一本立てる。


「新撰組がなくなりさえすれば、御陵衛士うちにこれる。そうでしょう?」


 体をくねらせ、そのままおねぇに身を委ねる。囮捜査官のときの習性は、BLを超え、さらなる情報を得ようと、おれ自身をアクターにしてくれる。


「そうね・・・」

 おねぇは、いたずらっぽく笑う。駆け引きがうまい。こうして、獲物をじらしたりおだてたりしてモノにするのだろう。


「伊東先生っ!伊東・・・」


 そのタイミングで、夜風にのって男の声が流れてきた。


 おそらく、戻ってこない藤堂、そして、もとの探し人であるおねぇのことを、探しにきた加納であろう。


 加納鷲雄かのうわしお、北辰一刀流の遣い手。おねぇの内弟子にあたる。剣術もさることながら、その思想は完全におねぇに傾倒し、いまや片腕として御陵衛士をひっぱっている。そして、ある意味では人がよく、すべての人間ひとを掌握できるという前向きすぎる性質たちをもつおねぇにかわり、とくに新撰組に対して警戒と画策を怠らぬ男。


 ちなみに、これより後、流山で新政府軍に名を偽って投降した近藤局長の正体を見破った男である。それがあって、近藤局長は斬首されることになる。


「近藤、土方両局長とは距離をおきなさい。できるかぎり、かかわらないこと。また、ちかいうちに会えるはずだから・・・。藤堂君、かれを裏門まで案内してあげて。おそらく、斎藤君が坂井君をそこまで連れてゆくはずですから」

「承知いたしました」


 藤堂が応じると、おねぇは身を翻すまえにおれの唇にキスしてきた。

 その神速技は、坂井のときとは違い、不思議と不快ではない。


 これもまた、もって生まれたおねぇの手練手管の一つなのかもしれない。


 そして、おねぇは、猫のようなしなやかな動きで木々の間に消えた。


 閨ではどんなだろう・・・。

 そんな疑問が浮かんだことに、自分で驚いてしまう。


 いや、マジであの魅力にほだされたというのか?


「さぁいこう、相馬君。だれかにみられるとことだ」


 藤堂に促されるまで、おれはおれなりのBLワールドを思い描いていた。



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