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主計はやっぱりイタすぎる

「無論です。相棒、西郷先生に従うんだ・・・・・・」

「主計。西郷先生に付き添い、兼定のことを教えてやれ」


 副長が、おれの相棒への指示にかぶせていってきた。一瞬、なにか裏があるのだろうか、と勘繰ってしまった。


「どうせおまえのことだ。西郷先生も大好きなんだろう?いい機会だ。いろいろ勉強させてもらえ」


 副長が視線をあわせてき、口の形だけで伝えてきた。


 大好きなんだろう?ってところはちょっとちがうが、いいチャンスであることはたしかである。


「いや、半次郎どん。おはんはこけいてくれん」


 半次郎ちゃんが、縁側から沓脱石に降りようとしていた。それを、西郷がとどめる。


 そりゃそうだ。おれは敵である。その敵が、犬をしたがえて西郷と散歩しようというのである。

 護衛ともいえるかれが、ついてこようとするのは当然であろう。


 そうなれば、おれにだって護衛が必要になる。

 半次郎ちゃんにかなうわけがないのだから。


「じゃっどん、西郷せごさぁ・・・・・・」


 同行を拒否られ、半次郎ちゃんは傷ついたようだ。いい返したくなるのも当然であろう。


西郷せごさぁ。立場をかんがえたもんせ」


 そのとき、右斜めまえの部屋から人がでてきた。しかも、二人である。どちらも、軍服姿だ。


 なんと、大坂城から幕府の金子やお宝を運びだしたときに追ってきた篠原国幹しのはらくにもとと、村田新八むらたしんぱちである。


 部屋のなかにいたなんて、まったく気がつかなかった。おそらく、気配を消していたんだろう。


 もっとも、庭にいる俊春なら部屋のなかはまるみえだし、永倉や島田ならいくら気配をけしていようと察知していたであろうが。


 それは兎も角、篠原はあいかわらず細面のイケメンだし、村田はあいかわらず『エルビス・プ〇スリー』にクリソツである。


 これだけの面子をそろえていたというわけか。

 ヨユーぶっこいているわけだ。


 篠原と村田もまた、西郷に心酔している。

 

 篠原は文武ともに長け、薬丸示現流の遣い手であるばかりか、用兵もかなりのものらしい。とはいえ、かれはこれからその才能をどんどんしらしめてゆく。

 

 村田は少年のころから西郷に兄事し、尊王の志が強い余り、喜界島へ遠島の憂き目にあったこともある。かれもまた、戦で兵をよく率いて戦うことになる。もちろん、これから後のことである。なにより、いつも風琴をもちあるいているというのが個性的であろう。さらに、『プレ〇リー』にクリソツなところも。いま現在は、もみあげはないが、現代に残っている写真はもみあげがあり、よりいっそう似ている。


 それは兎も角、二人とも西南戦争で死ぬ。

 つまり、有馬をのぞいて、西南戦争でみんな死んでしまうのだ。もっとも、有馬もくわわるつもりが、運命のいたずらか、それがかなわずに生き残るにすぎない。


 みな、西郷隆盛が大好きなのだ。もちろん、BL的要素はなくって、尊敬している系の大好きである。おそらく、であるが。


「わかっちょっじゃ。じゃっどん、おいどんなかれらを信じちょっ。そいに、かれらがそん気なら、とっくん昔においどんの頸は地に転がっちょっやろう。じゃっで、心配へりもはん」


 西郷は、みなの心配を大笑いしてかわす。


 なんてこと・・・・・・。有馬が余裕でおれたちに応対しているのは、西郷をみ、その余裕を感じているからなのか。


「庭をでて、海をみてくっだけじゃ。おはんらは、お茶でも呑んでまっちょってくれん。くれぐれも、無礼んなかごつ頼んじゃ」


 そこまでいわれて、それでもついてゆくともいえぬらしい。半次郎ちゃんと有馬が視線をかわしている。


「主計」


 それを横目に、副長が白くてきれいな右掌をさしだしてきた。反射的に、こちらも右掌をだし、握手する。ついでとばかりに、ぶんぶんと音がするほど激しく上下にゆさぶる。


「馬鹿やってんじゃねぇっ!」


 瞬間、めっちゃ怒られた。


「ソー・ファニーだぞ、主計。ってか、超ウケるんですけど」


 現代っ子バイリンガルの野村が腹を抱えて笑いだした。


「おまえなぁ。いまの、イタすぎるぞ」


 そして、なにげに現代っ子の永倉が呆れかえっている。


「組長、イタすぎるとはどういう意味でしょう?どこかにぶつけたとかでもないのに、イタすぎるとは・・・・・・」


 そして、アラフォーにしてなお好奇心旺盛な島田。


 庭に視線を向けると、俊春と視線それがあった。が、かれは、まるで世界一イタイ人間ひとをみるには気まずすぎるって感じで、視線それをそらせてしまった。


「ふんっ!」


 相棒のリアクションは、いつものごとしだ。


「いつまで握ってやがる?はなしやがれ。「之定」だ、「之定」。あずかってやるってこった」


 はい?


 副長にいわれても、すぐにはぴんとこなかった。


「西郷先生をみろ」


 いわれるままに西郷をみる。


 うーん、やっぱりでかい。


「そこじゃないだろう!」


 そして、みんなにいまのをよまれ、ツッコまれてしまった。

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