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ワンちゃんと西郷さん

「新撰組副長土方歳三」

「新撰組二番組組長永倉新八」


 しばしの後、衝撃からさめた副長が名のった。それにつづいて永倉も名のったが、超自然に新撰組二番組組長っていっている。


 その瞬間、副長のイケメンにうれしそうな微笑が浮かんだのを、見逃さなかった。


 ってか、副長も副長って名のってる。本当は、局長なのに。


「新撰組二番組伍長島田魁」

「新撰組とりまとめ役総長野村利三郎」


 はぁ?なんじゃそりゃ?とりまとめ役総長?


 野村の想像のななめ上をいきすぎている役職名に、副長も永倉も島田もおれも、ついでに庭にいる俊春と相棒も、ツッコミたいのを必死にがまんしているっぽい。


 そしてついに、おれである。

 

 ここは、関西人的にはボケるかオチをいれなければならない。これは、『マスト』である。なぜなら、ここにいるなかで関西人はおれだけだからである。他府県の人々に、『これぞ関西人のお笑い』ってところをぶちかまさなければならない。


 もしかすると、おれが幕末ここにやってきたのは、そのためなのかもしれないのだ。


「おっと、忘れていたな。こいつは、もうじき新撰組の犬の散歩係になりそうな相馬主計です」


 なにぃ?副長、マジっすか?


 おれがこの名のりあいのラストを、ボケるのかオチでしめるのかを迷っている間に、副長がしめてしまった。

 しかも、元って・・・・・・。


 新撰組うちサイドがふいた。それにつられ、有馬と半次郎ちゃんもふきだす。

 が、さすがは西郷である。そこはスルーし、おれをやさしい笑みでもって癒してくれた。


 ちょっ・・・・・・。なんて破壊力のある笑顔なんだ。


「兼定にさわってんよかろかぃ」


 なんと、西郷はおれに視線を向け、おれの視線それと合わせると、にこやかな笑みとともに尋ねてきた。


「ぜひ。西郷先生は、大の犬好きとききおよんでおります」


 ソッコー快諾した。同時に、相棒に掌をあげて合図を送る。


「勇ましか犬じゃなあ。まさしゅう、薩摩兵児じゃ。薩摩くににも、勇ましか猟犬がおっどん、兼定は、まるで狼んようじゃ」


 西郷は、一瞬驚いたような表情かおになったが、すぐにまた人好きのする笑みを浮かべた。相棒に向き直ると両膝をおり、おおきな掌で愛おしそうになでる。

 それは、現代に伝わっているとおり、かれが大の犬好きであることを顕著に証明する、なで方である。


 上野にある西郷隆盛像は待ち合わせスポットになっているが、連れている犬は薩摩犬の雄である。じつは、西郷は「ツン」という名の雌犬を飼っていたらしい。しかも、「ツン」は洋犬だったという説もある。


 だとすれば、上野の西郷隆盛像の犬は、犬種もちがうし性別もちがうってわけだ。


 それは兎も角、西郷の犬好きは相当なものらしい。ゆえに、犬にまつわる逸話もいくつか残っている。


 たとえば、犬に鰻を喰わせ、自分の分がなくなったとか、かなりの数の犬を飼っていたとか、西南戦争にも連れてゆき、かれが最期をむかえるまえに、その犬たちを解き放ったが、犬たちはいつまでも悲痛な声で鳴いていた、等々。


 そういえば、名犬がいたら、すぐに欲しがったという逸話もある。ゆえに、部下のなかで犬を飼っていた者は、よろこんで譲ったとか。


 おっと。これはまずい。まさか、相棒を気に入り、『譲ってくれ』なんてことにならないだろうな?


「あの・・・・・・、西郷先生、相棒、いえ、兼定はおれのすべてなのです」


 打診されるまえに、先手をうっておいたほうがいい。西郷も、自分の口から「譲ってくれ」といって断られれば、立場がないだろうから。


西郷せごさぁ。まさか、おはんの犬好きが敵にまでしれ渡っちょっとは。戦場いくさばで、最前線に犬を並べられたや、わが軍はおしめなあ。なぁ、半次郎どん?あ、いや、利秋どん」


 有馬がくつくつと笑いながら半次郎ちゃんにいうと、半次郎ちゃんもニヒルな笑みを浮かべる。


「こんためったね。心配へりもはん。兼定は、おはんからはなるっことはけっしちょらん。そいを、しゃいもはなすことなど、しきっわけがあいもはん」


 犬好きとしては、無理強いはできないらしい。


 ってか、西郷には、相棒はおれからはなれたくないようにみえている?


 西郷隆盛・・・・・・。想像以上に、最高にいいおとこじゃないか。


「じゃっどん、やっぱいかっこよかね。兼定を連れてあっけたや、最高やろう」


 が、相棒をなでつづけながらポロリとこぼした。

 

 どうやら、西郷はおれよりもわかりやすいらしい。心や表情かおをよむ必要などないのである。口にだしてしまうのだから。


 とはいえ、本音をぽろぽろだしてしまうのだったら、外交には向いていないだろう。よくもまぁ、あのクセありありの勝海舟を相手に、話し合いができたものだ。


「西郷先生、どうぞ。兼定を連れてあるいてみてください」


 思わず、そういっていた。


 局長同様、かれにはこちらからつい望みをかなえてあげたくなってしまうオーラがでまくっている。


「どうぞ」


 そのタイミングで、片膝ついて控えている俊春が、相棒の綱を差しだす。


「よかと?やったら、あっかせていただきもんそ」


 こちらをふりかえってあおぎみるかれの笑みは、とろけそうなほどあかるくてやさしい。


 動画をアップすれば、男女問わずキュン死か悶絶死する人続出にちがいない。

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