表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/1255

救世主(メシア)

 おねぇは体術、いや、柔術はできるのだろうか・・・。


 迫りくるおねぇのきれいな相貌かおをみつつ、漠然と考える。


 web上では、おねぇの柔術についての記載はいっさいなかった。それを信じるとすれば、剣術しかできないことになるだろう。


「い、伊東先生?おれは、先生の思想に興味がありまして・・・」


 緊張のあまり、声がかすれているのが情けない。これだったら、抜き身を握って相対する方がよほどいい。


「そうだろうとも。おおいに理解しているとも」


 おれの唇を指先で何度もなぞりながら、そう呟くおねぇの声もやけに上擦っている。


 なにを、どう理解しているというのだろう?

 すかさず、突っ込みたくなる。


 それにしても、きれいな指である。掌、そのものは剣術で分厚い。が、きれいに磨かれた爪先には、ささくれ一つない。これが現代だったら、シンプルなネイルでも施しているに違いない。


 そう考えていたら、指がじょじょに唇から下におりてくる。そして、一本だった指の数は、じょじょにその本数を増やしてゆく。頸に触れられた。身の毛もよだつ、とはこのことに違いない。


 おれは、自分がやさしくないと思っている。なので、いまだかつて霊、というものに遭遇したことはないし、感じたこともない。


 本来なら、そういった怖いものに対する表現で使うはずのそのフレーズであろうが、いまのおれの恐怖心は、まだ霊的なもののほうがよほど怖くない、と確信できるほどマックスにまで膨れ上がっている。


「伊東先生?その・・・。おれはあまり・・・。なんというんでしょうか・・・。くすぐられるのが好きではありませんでして・・・」


 くすぐられる?


 自分でいって、自分で突っ込む。これは、けっしてくすぐっているのではない。愛撫?前戯?なんでもいいが、兎に角、この指を掌ごとどけてもらいたい。


 残念ながら、思いは届かぬらしい。おねぇは、さらに妖艶な笑みをひろげ、掌をおれの着物のあわせに差し入れる。


 マジ、やばい・・・。


 うしろによろめいてしまう。それを助けるがごとく、おねぇの左掌が腰にまわされた。しかも、その掌にこもった力は、美貌に浮かんだ妖艶な笑みとは真逆に、異常に強い。


 さすがは皆伝。腕の力は尋常じゃない。っていうか、ここは悠長に感心するところではない。


 着物に差し入れられた掌が、おれの胸をゆっくり撫でまわしている。


 これまでよんだ漫画や小説の知識から、この掌が、指が探しているのは、おれの乳首に違いない。


 超まずい・・・。そして、おれの腰にまわされた左掌もまた、いまやおれの腰を執拗に撫でまわしている。


 このままだと、上も下も制圧されてしまう・・・。


 そのときである。すこしはなれた茂みが、がさがさと音を立てはじめた。ハッとする間もなく、そこから何者かが飛びだしてくる。


「あっ・・・」


 その絶句は、飛びだしてきて、思いもかけぬ光景に遭遇したときの、共通の反応であろう。


 小柄なその男は、茂みから飛びだした途端、その場に凍りつく。



 藤堂平助。


 おれの救世主メシア・・・。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ