暗示にかかりやすい人とは?
それは兎も角、さきほどの副長の言葉についてかんがえさせられてしまう。
『だれにたいしても怖いのをたえている感じがする』
そういえば、おれの寝込みを襲ったり、おれに身体的になにかをやってくるのは、いつも俊冬がメインの気がする。二人でおれをはさんでサンドイッチしてくることはある。いわれてみれば、俊春は控えめに体を密着させている気がする。
板橋でも、原田にハグされるまえに一瞬ではあるが凍り付いていた。
頭をなでられる程度が、身体的接触のギリギリのラインなのだろうか。
だとすれば、かれはおれの推測のななめ上をいっている。
どれだけ我慢しているのだろう。どれだけたえているのだろう。
男性しかいない新撰組で男性が怖いのだとすれば、かれの精神は相当まいっているかもしれない。
おれが思いをはせている間に、原田が島田にあのときのことを話してきかせたようだ。
「ゆえに、新八はとんでもなく悪党ってわけだ」
「なっ、なにゆえ、そういう結論にいたるんだ、左之?魁、きいてくれ。おれはたった一度殴っただけで、親の敵みたいにいわれつづけているんだ」
「二度だろうが、新八」
「二度でしょう、組長」
原田と島田が、ソッコー訂正する。
「二度目は、土方さんの理不尽な命にしたがっただけだ」
永倉は、ぷんぷんと怒っている。
「なにいってるんだ。二、三発程度にきまってるだろう?それなのに、われを忘れて殴りまくったではないか。俊冬にしろ俊春にしろ、あれは俊冬の一度目となんらかわりはなかった」
「くそっ!土方さん、だからいやだったんだ。あんたのおかげで、おれはつぎに生まれかわっても、左之に嫌味をいわれつづけそうだ」
「そういえば、俊春殿は、永倉先生を誘導したといってませんでしたか?」
そう。かれは、自分自身をフルボッコにするよう、誘導したといった。
永倉自身、さいしょの俊冬のときには、感情的になって理性がはじけ飛んでしまったんだろう。が、二度目は、副長の意をくんでの行動だ。ひきとめようとか、こちらの想いをわかってほしいという強い気持ちはあっても、そこまで感情的になるはずもない。
ましてや、永倉は実戦経験の豊富な剣豪。暴力の場においても、ある程度自分自身を制御できるはず。
それが、気がつけばとめられていた、というのも不可思議な話である。
「うーむ。よくわからぬが、そういえば、俊冬のときも俊春のときも、馬乗りになって瞳をみてからの記憶があまりない・・・・・・。そうだ。瞳だ。あれをみてからだ」
「催眠術ですかね?ああ、暗示みたいなものです。まさしく、眼力ってやつですね。おそらくですが、かれらも副長の意をくみ、自分で納得ゆくまで殴ってもらいたかったのかも」
「なんてことだ。それで、あそこまで?」
おれの推測に、島田は呆れている。
あくまでも推測の域をでないが、なにかにつけてストイックすぎるかれらのことである。まんざら見当ちがいでもないだろう。
「土方さん。主計の申すことが正しければ、これからは力の弱いやつにやらせたほうがいいな」
「あっああ、左之。その助言、ありがたく受けておこう」
副長は、驚き半分呆れ半分の表情で原田のアドバイスを受け入れている。
「暗示なのでしたら、かかりやすい人とかかりにくい人がいますから。たとえば、純粋でまっすぐな永倉先生や島田先生、それからおれみたいなのはかかりやすいですが・・・・・・」
「ちょっとまちやがれ、主計」
「ちょっとまてよ、主計」
副長と原田が、ソッコーダメだしをしてきた。
なにゆえダメだしをされるのかが、正直、わからない。
「たしかに、主計の申すとおりかも」
「なるほど・・・・・・」
そして、永倉と島田は心から同意してくれている。
「それは兎も角、たしかに、副長のおっしゃるとおりかもしれません。俊春殿のトラウマは、相当深刻なようです」
「虎馬だって?」
「虎と馬って、どういう意味だ?」
永倉と原田が喰いついてきたが、動物と勘違いされているらしい。
「心的外傷後ストレス障害のことです。たとえば、勝先生が幼少の時分、犬に陰嚢を噛まれて死にそうになって以来、犬が大の苦手です」
「おお、ありゃぁみものだった。兼定のことを、俊冬以上に怖がってたな」
副長が、くすくす笑いながらいう。
「そうです。なにか強烈なことがあったら、そのせいで恐怖を感じたり傷ついたりしますよね」
「おれも、ガキの時分、番頭にほられそうになってから、衆道ってのは倦厭したいって思ってるがな」
「あんたのは、女とよろしくやりすぎて、野郎にまで掌をだす必要がないだけだろうが」
至極冷静な永倉のツッコミである。
たしかに、副長もその未遂事件がきっかけで、BLは「ない」のかもしれない。
だが、ふっちゃけ、もしもその気のあるイケメンに甘えられでもしたら、むげにはしないはず。
訂正。おねぇ以外は、である。
どちらにしても、二次創作では周囲とやりまくっているし・・・・・・。
おおっと、いまのは土方ファンの女性たちにとっては、ついでに土方ファンの男性たちにとっても炎上もののつぶやきだったか?




