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春日さんはイヤかも・・・・・・

「ウィ・ゴー・トゥー・アイヅ、ライト?」


 現代っ子バイリンガルの野村は、よほど眠いんだろう。もはやそれを隠そうともせず、欠伸をしながら尋ねている。


「いや、だめだ」


 野村が『会津にいくんですよね?』と尋ねたタイミングで、ふと思いだした。


 そうだ。いままで、局長のことがあったから気にもしなかったが、局長のおかげで斬首を免れたおれたちは・・・・・・。


「ホワット・ザ・ヘル!なんでおまえにダメだしされるんだよ」

「おれたちは、板橋で拘束されていた。本来なら、副長と島田先生はここにはいない。会津に向かっているんだ。そして、おれたちは、本来なら出身の藩に預けられて謹慎するはずだった。で、脱走して春日左衛門かすがさえもんという幕府陸軍隊の隊長の麾下に入って、北へむかうんだ」

「春日?だれ、それ?」

「旗本だよ。もうじき彰義隊が瓦解する。江戸に潜伏している春日さんは、彰義隊の生き残りとともに、輪王寺宮を擁して江戸を脱する」


 輪王寺宮とは、三山管領宮の敬称の一つである。


「旗本?サノバビッチ!ぜったいにいやだ」


 野村は、相貌かおを左右に激しく振り振り拒否る。


 じつは、野村はこの春日と折り合いが悪く、抜刀騒ぎまで起こすことになる。すくなくとも、史実ではそう伝えられている。


 結局、かれは蝦夷で新撰組に復帰するのだ。


 まぁたしかに、いまここで副長と会っているのに、わざわざ春日をさがしだし、行動をともにしたいとは思わない。どんな人物かはわからないが、万事そつなくコミュニケーションをとることのできる野村が、抜刀するほどだ。

 その理由は、かれが命令違反をしたことによるそうだが、モンスター隊士のかれでも、命令を違反するとはかんがえにくい。違反させるようななにかがあったとしか思いようがない。


 だとすれば、野村だけに非があるわけではなく、春日にもあったかもしれない。


 正直、おれでも円満にやってゆく自信はない。


「いいじゃねぇか。そんなささいなことくらいで、未来がかわるわけでもあるまい?」


 副長に、またよまれてしまった。いまの言葉が、『いっしょにこい』といってくれたのだと判断し、笑ってうなずいておく。


 まぁどうせ、野村とおれが春日の下にはいったとしても、隊のレベルが最弱の1から最強の10にあがるわけではない。


 というわけで、そこは『まぁっいっか』、で片付けることにする。



 俊春は、物見と食料調達にでかけてしまった。

 中山道をゆく原田と、おれたちの道中に敵がいないかを探りにいったわけである


 俊春がそれを申しでたとき、副長はソッコーOKをだした。


 副長は、一人になりたいというかれの意をくんだのであろう。


 野村は、横になってうつらうつらしている。おれも横になったが、腹が減りすぎて眠れそうにない。そうそうにあきらめ、起き上がった。


 それに、原田とは朝がきたら別れることになる。せっかくなのだ。もうすこし話をしたいって気もする。


「なんだ?眠れんのか?」


 おれが起き上がると、永倉が気がついてきいてきた。


「いえ。腹が減ってしまって」

「だから、肴も買おうっていったろう?」


 原田が苦笑しつつ、永倉の後頭部を掌ではっている。


 どうやら、おれたちをむかえにきてくれた際に、酒をゲットしたらしい。  

 車座の中心に一升徳利が二本置かれていて、それぞれのまえに猪口がある。


「猪口を忘れちゃいけねぇってな。そっちに気がまわっちまってた」

「俊春がなにかもってきてくれるだろう。せっかくだ。主計、おまえも呑め」


 ふだんはめったと呑まない副長が、徳利をもちあげて誘ってくれた。


 局長の通夜か・・・・・・。


 酒を呑んでいる意味を悟った。ゆえに、なんの躊躇もせず車座にくわわる。


 島田が猪口を渡してくれた。


 そして、しんみり呑みはじめた。今宵ばかりは、いつものよう杯をなめるのではなく、ちびちびと呑む。

 すきっ腹なので、その程度でとどめておく。


「総司になんて話せばいい?」


 原田が、ぽつりときいた。

 そうだ。かれが丹波にゆけば、いの一番にきかれるだろう。


 沖田は、局長を兄というよりかは父親のように慕っている。真実をきかされたら、かれはどうなるだろう。それに、真実を語る原田もつらすぎるだろう。


 史実に逆らい、丹波にいって静養している沖田。いまこの時点で、丹波にいるかれがどうなっているのかはわからない。労咳が悪化しているのか、落ち着いているのかすら。しる術もない。

 いずれにしても、かれは局長を護るため、復帰するためにがんばっているはずである。


 本来ならかれは、閏四月をはさんだこの五月に江戸の千駄ヶ谷で労咳のためにひっそりと息をひきとる。局長の斬首をしらないままで・・・・・・。


「すまねぇな、左之。いやな役回りをおしつけちまって。様子をみ、告げるか告げねぇかは判断してくれ。いずれ耳朶に入るだろう。いらぬ期待をもたせたり、案じさせるってのもな・・・・・・」

「わかったよ、土方さん。うまくやらぁ」

「あの、原田先生。沖田先生が比較的元気でしたら、告げるのはもうすこし延ばしてもらえませんか」


 そう前置きしてから、史実に伝えられている沖田の死を語った。




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