表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

706/1255

島田との語らい

「もしかして、相棒のことじゃないんですか?ほら、だれだってしっていましたから。もしくは、相棒を連れたおれのことを」

「言の葉にするにはうまくできぬが、おぬしのことを噂にきいたとか、みかけたとかではない」

「いったい、どういう根拠で・・・・・・」


 周囲どころか新撰組全体、それどころか新撰組に関係するすべてをよくみききし、心を配っている島田である。

 そのかれの言葉である。あながち思いすごし、とはいいきれないものがある。


「俊冬は、副長にそっくりだ」


 島田は、おれがいいかけたことをスルーしてつぶやく。


「副長がもうすこし歳をとっているか俊冬が若ければ、それこそ隠し子といいたくなる」


 島田は、燭台に視線を向け、こちらへそれを戻す。


「ええ。それは、おれも感じています。おれだけではありません。永倉先生、原田先生、斎藤先生も同様です」


 沈黙が、重くのしかかる。


「いろいろなことが、不可思議でならぬ。正直なところ、主計、おぬしよりもよほど不可思議だ」

「はい?」

「おぬしがずっと将来さきの時代からやってきたということを、疑っているわけではない。が、あまりにもこの時代にそまりすぎているがゆえに、違和感がないのだ」

「ええ。自分でも驚いています。おれ自身、元いた時代よりもこっちのほうが、よほど性にあっていると断言できますので。まぁもともと副長が好きで・・・・・・。いえ、そういう意味の好きではありません。あくまでも、土方歳三という男の生きざまが・・・・・・」

「わかっている。おおいにわかっているから、つづけてくれ」


 いや、島田。ぜったいにわかってないし、すりこまれすぎていてわかろうという気もしないだろう?


「この時代のことをいろいろ調べました。ムダに知識があるわけです」


 そういいつつ、人差し指で自分の右のこめかみのあたりをポンポンとたたく。


「ゆえにこっちにきて、むしろなんか懐かしいって気がして・・・・・・。で、おれは違和感がないのに、かれらにはあるっていうんですか?」

「あるのかないのか、どちらかを選べばといわれれば、ない、だ。が、なにかがひっかかる。これもまた、なにがと問われれば、答えようもないのだが」

「なんとなく、わかるような気がします。島田先生。かれらの違和感のことは、この際あとまわしにしましょう。じつは医学所で夜になるのをまっていたとき、俊冬殿と話をしたんです。そのときも、かれはめっちゃ様子がおかしくって・・・・・・」


 自分から尋ねておいて、話題をかえるイヤなやつである。

 が、どうしても話しておきたいのである。


 いまの副長に、医学所での俊冬との会話の内容は伝えられない。よりいっそうショックを受けるだろうから。

 だとすれば、島田にしか話せない。

 ゆえに、そのときのことを思いだしつつ伝える。


「俊冬殿は、『副長や主計を落胆させることになる。絶望させることになる』といわれました。『副長と主計は、わたしを恨み、軽蔑することになるだろう』とも。とてもではないですが、こんなことをさきほど副長に伝える気にはなれませんでした。おそらくですが、これがきっと、暇乞いの理由につながるんですよ」

「いったい、なにがあるというのだ・・・」


 それから、島田と二人であれこれ推測してみたものの、ベタなものばかりで、結局これという案がでないまま、そろって寝落ちしてしまっていた。


 朝、島田とそろって起きてゆくと、沢が朝食を準備してくれていた。


 潜伏用にと準備していた食材をつかい、深夜、俊冬がでてゆくまえにつくっていったようだ。


 おむすびに鯵の干物、具沢山の味噌汁に海苔の佃煮、もちろん、沢庵・・・。


 それを、沢があたためたり焼いたりしてくれたのである。


「たまは、おれが命じた任務で戻ってこねぇ」


 朝食を噛みしめながら、副長が告げる。みな、さして気にする様子もなく、「食事は、順番につくるか」とか、「いやいや、これだけしかおらぬ。みなで手分けしよう」などと話している。


「主計。喰ったら、出発しろ」


 上座から命じた副長は、疲労感が漂っている。いつものごとく、それがイケメンに作用することはけっしてない。


「承知」


 おれは、深夜のことなどなにもなかったかのように承諾する。


 そして、勝と松本の嘆願書を携え、隠れ家をでた。


 相棒は副長の左脚許にお座りし、見送ってくれた。


 東山道鎮撫総督軍の本営が、江戸の玄関口である板橋宿に置かれるのは、至極当然であろう。


 板橋の刑場は、その本営が置かれている板橋宿の手前、平尾一里塚ちかく、現代ではJR板橋駅の北付近である。


 おれは、本営に嘆願書を持参した。

 どうせとっ捕まるのである。それも、ソッコー。ゆえに、「之定」とマイ懐中時計は島田に託した。



 それは兎も角、東山道鎮撫総督軍の総督は、岩倉具視の次男具定(ともさだ)。副総督は、その弟の具径ともつねである。


 兄は1852年、弟はその翌年の1853年生まれである。つまり、まだ16歳と15歳の子どもが、要職についているのだ。


 もちろん、実権は長州や薩摩、土佐が握っている。


 二人とも、明治期にアメリカへ留学し、帰国してからそこそこ活躍する。

 

 たしか、弟は病気で三十代後半で死ぬと記憶している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ