少女漫画風島田魁
「よくしっているな。ああ、そうか。まさか・・・・・・」
「ええ。先生のその刀、ずっと未来にまで遺っているんです」
「そうか・・・・・・。すごいな。これは、日野にいったとき、井上先生のご実家を通じて局長より賜ったんだ」
「そうでしたか。それはよかったですね。大切にしてくださいよ、未来のためにも」
「ああ、そうしよう」
島田はその脇差を鞘ごと抜き、いとおしそうになでてから、左太腿のそばにおいた。
京の戦で亡くなった井上源三郎の遺志が、こもっているかもしれない。
そういえば、その井上源三郎にとどめをさしたのが俊冬だ。
ふと、あのときのかれを思いだした。
あのときも、かなりまいっていた様子だった。いや、いまも気に病んでいるだろう。
「俊冬も無論そうであるが、副長のことが案じてならない」
島田もおれも、「たま」なんて呼ぶ気になど、とてもならない。
ふたたび、そのように呼べるようになりたい。
「そうですよね。局長にくわえ、俊冬殿まではなれてしまったら、副長は・・・・・・」
やっかみなどではない。
島田は、副長の精神面を支えている。副長の話をきき、副長がなにかを決定したり選択したりするのに、勇気を、あるいはあとおしをする感じだろうか。
俊冬は、その決定や選択をする元を調べ、準備する。
副長にとって、この二人はなくてはならない存在であろう。
もちろん、俊春も。こちらは、その決定や選択を、忠実かつ確実に実行する。
副長にとっては、兄貴よりおとなしくてある意味やさしすぎる俊春は、片腕というよりかは弟みたいな存在なのかもしれない。
「主計、あの二人のことをしっていたのではないのか?」
そんなことをかんがえていたので、島田の質問をきき逃してしまうところであった。
「はい?」
「おぬし、また眠っていたのではないのか?」
「島田先生、このおれの睫毛バツッのぱっちりお目々は、これ以上にないほどみひらかれていましたよ。眠っているわけがないじゃないですか」
向かいあって胡坐をかいているおれたちの距離は、島田のリーチなら「藤原正宗」でおれの胸板を充分刺し貫ける距離である。
瞼が開いているくらい、くっきりはっきりみえているはず。
それとも、瞼を開いたまま白目状態で眠っているようにみえたのか?
そんなの、ゾンビだ。
「バツッとは、どういう意味だ?それがながいという意味なのなら、笑えるぞ。ちっともながくないではないか。ながいというのは、こういうことを申すのだ」
島田は、指輪とは縁のなさそうな節くれだったぶっとい人差し指で、自分の瞳を指さす。
みえん。視力は悪くないが、ほんのりとした燭台の灯のなか、睫毛のながさまでみえるわけはない。なにゆえ、おなじ条件の島田が、おれの睫毛のながさがみえるというのか?その上で、悪くいっているのか?不可思議でならない。きっと、みえていないのに、テキトーにいっているにちがいない。
ってか、これってめっちゃ相貌をちかづけないとみえないじゃないか?
「みてみよ」
せかされてしまった。
精神の状態がよくないせいか、なにゆえかあらぬかんがえにばかりはしってしまう。
もしかして、これって誘われてる?
「はあ・・・・・・」
態度には超ダルそうに、心のなかではドキドキしつつ、腰をうかして膝行する。
『ぶちっ!』
そのとき、しずかな室内に音が響いた。
「ほうれ、ながいであろう?」
なんと、かれは人差し指と親指で睫毛をむしったのである。
もう片方の掌に、のせられた大量の睫毛・・・・・・。
たしかに、少女漫画級にながい。ってか、つけ睫毛なのか?ってくらいにながすぎる。
脳裏に、少女漫画チックの「島田魁」を思い描く。
バックに薔薇の花。きらきら感満載で、白いブラウスの胸元をはだけ、スラッとした感じの白いスラックスをはいている。靴は、ローファーだ。
少女漫画のごとく、一つ一つのパーツがムダにおおきくてすっきりはっきりした相貌。そこに浮かぶ、さわやかな笑み。髪は、金髪でやわらかくカールしていて・・・・・・。
「ぶふふふっ」
不覚にもふきだしてしまった。
「主計、わたしは「小太刀日の本一」の佐々木只三郎ほどの腕ではないが、おぬしの心の臓を確実に貫くだけの腕はあるぞ」
島田が、ムッとした表情で忠告してきた。
「す、すみません。いやー、マジながいですね」
笑いながら、取り繕う。
ほんのわずか、元気がでた気がする。
島田がおおきなため息をつくと、掌の上の睫毛がふわりと飛び、畳の上に落下してしまった。
「それで、質問はなんでしたっけ?」
「おぬしは、あの二人のことをしっていたのではないのか、と尋ねたのだ」
「え?いえ、しるわけないじゃないですか。島田先生もご存じのとおり、おれはもともとこの時代にいたわけじゃないんです。なにゆえ、そう思われるのです?」
「あの二人が、おぬしのことをしっていたようだからだ。ゆえに、たがいにしっていたのかと」
ソッコーかえってきた。
なに?なんだって?双子が、おれのことをしっていた?




