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気になる双子

「いや、なに。医師おれたちみたいな稼業をやってると、現実のことしか信じられなくってよ。不可思議なことには、双眸を向けねぇんだ。まぁ、そむけちまうっていったほうがいいな」

「あぁつまり、民間信仰やまじないや呪いなどですね」

「そのとおりだ、主計。だが、あの二人は、そんなおれでも興味をそそられちまう」

「ええ?」


 思わず、副長と二人で叫んでしまった。


 まさか、かの松本良順がBL系だと?


「なぁおめぇら、へんなこと想像してやしねぇか?そっちじぇねぇ」


 松本は、胸を張ると鼻息あらくつづける。


「医学所で、あいつらがいろいろと手伝ってくれたんだ。いちいちついてまわってるわけじゃねぇんだが、患者にたいする処置が、舌を巻くほどでな。ありゃあ、おれのしってる治療法じゃねぇ」


 声をあげそうになったのを、かろうじて呑み込んだ。


 松本といえば、長崎でオランダ軍軍医のポンぺに師事し、この時代では最新の医療技術を学んでいるはず。その松本をして、双子の技術をしらない、と?


 そりゃぁ、異世界の医療技術はちょっとちがうのかもしれないが・・・。


「ほかにもある。薪割りとか建物の修繕を頼んだときだ。二人とももろ肌ぬぎになってるから、上半身をみるともなしにみてたんだ。体躯が傷だらけってのに、驚いちまった」


 松本は、つづける。


 どんだけ働いてるんだ、双子?


 って、そっちじゃないか。


「ありゃあ、そうとう昔の傷だ、それこそ、餓鬼んときのだ。ほとんどが、銃創だ。しかも、みたことのないほどきれいなもんだ。おれの患者の銃創それは、肉のえぐれ方が半端ねぇ。正直、こんな稼業やってなかったら、えずいちまうだろう。悪い夢みちまうってもんだ。それは兎も角、それ以前に、餓鬼の時分ころの銃創って、あいつらはいってぇ、どんなところで育ったんだ?」


 驚きすぎて、驚きの言葉すら思い浮かばない。たしかに、いちいちもっともである。

 俊冬曰く、異人の仕事を請け負うことがあり、その仕事の過程で受けたものということだ。それをきいたとき、そんな幼い時分ころから裏の仕事をしているのかと驚いたものだが・・・。


 たしかに、そんな幼少期から仕事をしているということも異常だが、銃創の傷がこの時代の銃のそれとそぐわないというのも気にかかる。


 もっとも、異世界転生では銃創もきれいなのかもしれないが・・・。


「あいつらの指がないってのは?」

「ある理由で、刀で斬り落とされたと」


 幼少のころ、俊春が桜田門で「村正」を振るい、おおくの武士さむらいを斬殺した。他藩のいざこざに巻き込まれたからであるが、それが二度あり、二度目は俊冬も武士(さむらいを斬っている。その異常なまでの力を目の当たりにした実父が恐慌をきたし、まずは俊冬の左小指を斬り落とした。それから、俊春の左腕を斬り落とそうとして失敗し、左腕に裂傷と左の小指と薬指を斬り落としたという。


 左の小指や薬指を失うのは、剣士としては致命傷である。


 虐待は、かれらが双子として産まれたからこそ、である。この時代、双子は忌み嫌われる。


 かれらは、ネグレストと虐待のなかで、生命いのちを繋いできたのだ。


「斬り落とされた?ありゃぁ、そんなきれいな切断面じゃねぇ。しいていえば、もっと切れ味の悪いものでぶった切られたか、おおきな力で吹っ飛ばされたかって感じにみえるがな。でっ、俊冬の頬の傷は?」

「それは、きいたことありません」


 そういえば、そこはきいたことがない。


「刀にしろ、小刀ドスにしろ、包丁だってそうだが、かような切り口じゃねぇ。もっとこう、分厚い刃だな」


 なにがなにやらわからず、パニック状態になってしまっている。無意識のうちに、副長に助けを求めてしまう。


 が、副長は、平然としている。おだやかな表情かおでさえある。


 視界のすみに、さっきまで寝そべっていたはずの相棒がお座りしていて、縁側ににじりよってこちらをじっとみている。


 まるで、おれたちの話をきき逃すまいとしているかのように。


「法眼。いまの話、胸におさめてもらえませんか?あいつらは、仲間です。それ以上でも以下でもねぇ。新撰組うちは、素性は問わねぇのが流儀です。どんな野郎であろうと、どんな過去があろうと、ともにやってくれるってんなら、それでいい。それに、あいつらは・・・」


 そのタイミングで、相棒が立ち上がって尻尾を盛大に振りはじめた。


 どうやら、噂の人物のご帰還らしい。


 灯りのとどく範囲内に、俊冬が浮かびあがった。


 どきりとしてしまう。

 もちろん、ときめきとかそんな類のどきりではない。


「先生。深更、おしかけてしまい、申し訳ございません」

「いいってことよ。気にすんな」


 松本はフツーを装い、庭さきに控えている俊冬に笑いかける。


「それよりも、あがれあがれ。腹も減ってるだろう」

「お気遣い、痛み入ります。まだ、調べたきことがございますゆえ、これにて」


 俊冬は、如才なく受け流す。


 それにしても、いまからまた調べにでてゆくって、どんだけ体力があるんだ、俊冬?


「副長。やはり勝先生は、われらを警戒されておいでです。宅内、宅外に浪人を潜ませています」

「浪人?ふんっ、おれたち相手に、どんだけ役立つってんだ、ええ?」


 副長は、俊冬の報告を鼻で笑う。


「火薬のにおいがいたしますゆえ、数名は銃をもっているかと」

「そいつは、ごたいそうだな。銃などきくか、ええ?」

「おいおい、土方。銃相手に、やけに強気じゃねぇか」


 松本の驚きの表情かおに、副長は不敵な笑みを浮かべる。


「銃など、なんの役にも立たねぇってことを思いしらせてやりますよ」

「こいつぁ驚いた。近藤さんの話では、土方は冴えてるが、そりゃぁ剣じゃなくって悪知恵だってことだが・・・」

「はぁ?」


 思わず、ふいてしまった。庭で片膝ついてひかえている俊冬も、面をさげて笑いを噛み殺しているようである。


「ったく・・・。悪知恵ってどういうこった?だっていってもらいてぇよ。おいっおめぇら、いつまで笑ってやがる」


 俊冬とともに、叱られてしまった。


「銃が、否、銃だろうが刀だろうが、怖くねぇのは、こいつらがいてくれるからですよ、法眼」


 副長は、マジな表情かおで自慢する。


 こいつらというのが、俊冬と相棒だけでなく、おれもふくまれているんだろうか?


 だったら、うれしいじゃないか。


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