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とってもかわいらしい兼定とかわいらしい主計

 はぁぁぁぁ・・・。


 さすがは、たらしの土方歳三である。

 女性の声だけで、戦闘態勢に入れるなんて。

 いっきにヤル気モード全開にきりかえられるって、すげぇって思ってしまう。


 ぜひとも、それを剣術に活用していただきたい。

 と、願うのは贅沢であろうか。


「あらまぁ、俊冬殿・・・」

「奥方様。おやすみのところ、誠にかたじけのうございます」


 そして、いま一人のナンパ野郎、もとい、ジゴロ、もとい女泣かせ野郎が・・・。しかも、名を覚えられてるほどのしりあいってか?



 わお・・・。


 野郎おとこどもは兎も角、玄関に手燭をもってたたずむ女性は・・・。


「副長。松本法眼の奥方のとき様でございます。奥方、こちらは・・・」

「存じております。土方様でございますね。噂どおり、たいそうお美しい方でいらっしゃいますわ」


 なんてこった。やっぱり噂なんだ、そこ。


「奥方。深更におしかけてしまい、誠に申し訳ございません。土方歳三、土方歳三でございます」


 ときさんのもつ手燭の灯に、副長のキザッたらしくて不愉快きわまりない、もとい、女性ウケする笑みが浮かび上がる。


 しかも、選挙の候補者のごとく、ムダに名を強調している。


 副長が二度も名を連呼するときは、ちょっぴりマジらしい。京にいた時分ころ、沖田からそうきいたことがある。


 ちなみに、その数が増えるごとに、マジ度も上がるとか。


 それはそうと、「風光O」の作者はさすがである。しっかりと時代考証したにちがいない。

 漫画に描かれているご本人と、雰囲気はまんまである。漫画のかのじょがダイエットし、サプリかなんかで若く美しくなったといえばいいだろうか。

 つまり、モデルのようなボディや相貌かおではないが、たいていの男はすれちがったら「なかなかいいな」と感じるだろう。美人でプロポーションがいい、ってわけである。


「俊冬殿と俊春殿も美しいですが、土方様は仏様のように神々しい美しさでございますわね」


 ちょっ・・・。仏様?たとえをだすにも、それはむちゃぶりだろう。


 副長は、おれの隣で鼻をムダに高くしている。同時に、その鼻の下は地面に向かってびよーんと伸びている。


「さあ、どうぞなかへ。大歓迎でございます。松本は、書斎にこもっております。すぐにおよびいたしますので。あらまぁ・・・」


 かのじょは、そこではじめてここにいるのがイケメンズだけではないことに気がついたようである。


「とってもかわいらしい。松本からきいていますよ。あなたが、沢庵好きの「兼定」ね」


 ちょっ・・・。そっちかい!


 おれより相棒のほうに気がつくなんて。ってか、なにゆえ、自分とおなじくらいの目線より、めっちゃ目線がさがるところにいる相棒に気がつくのか?

 ってか、透明人間か隠れ身の術をつかっていないかぎり、おれに気がつかないなんてありなのか?


 たしかに、感知式の自動ドアやライトや、はては感知して蓋を開け閉めする便座まで、なかなか反応してくれないことはあった。

 

 が、これはちがうだろう?


 しかも、相棒がかわいい?


 相棒は、松本家の玄関先を尻尾でめっちゃ掃いてる。強面の相貌かおは、かぎりなく愛想よく笑顔になってるし・・・。


 副長が隣で、副長をはさんで向こう側にいる俊冬が、ぷっとふいた。


「お腹すいたでしょう?たいしたものはありませんが、いただきものの沢庵がありますのであとでおだししますね」


 相棒は、どこにいっても「キング・オブ・兼定」である。


「あらあら、わたしとしたことが。かわいらしい殿方がいらっしゃったのですね」


 そして、いまさらながら、やっとのこと、かろうじて、ギリでおれっていう存在に気がついてくれたらしい。


「かわいい?」


 隣から、副長のつぶやきが。


「とってもがつかず、かわいいのみ?」


 副長の向こうから、俊冬のささやきが。


 ふんっ。どうせ、おれは相棒よりかわいくないですよ。

 ってか、かわいい?


 そんなこと、年上女子(じょし)からしかいわれたことがない。

 まぁときさんも、年上女子(じょし)にはちがいないか。


「相馬、様でございますね?相馬様のことも、松本より、うふふ・・・。さぁ、お入りになってくださいませ。ご近所は就寝中かと思いますが、どこでどうみられているやもしれませぬ」


 はい?いまのうふふってなに?なに、なに?

 

 松本は、おれのことをかのじょにどう話したのだろう。


 おれの当惑をよそに、かのじょはさっさとイケメンズを玄関へと招き入れようとしている。


「お言葉に甘えて、お邪魔させていただこう。うふふっ」

「副長。わたしは、このまま勝先生の屋敷を探ります。すでに勝先生の耳朶に、局長のことが入っていてもおかしくありませぬ。そうなれば、われらがおしかけることを、勝先生は予想するはず。いかなる出迎えの準備をされておいでか、みておきたいのです。うふふっ」

「さすがだな、たま。つかれているだろうが、たのむ。うふふっ」

「なんの。体力だけはございます。一時(約2時間)ほどで、もどれるかと。うふふっ」


 いったいなんだよ、もうっ。


 イケメンズ、いちいち語尾にうふふをつけなくってもいいし。


 そんなショートコントの後、俊冬の姿が月明かりの届かぬ薄暗闇に消えた。

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