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背丈の問題

「やめねぇか、登。局長の決定だ」


 副長の一喝。


 中島は、ふたたび開けようとした口を閉じてしまった。

 隊士たちも、はっとして隣の隊士の相貌かおから、視線を局長へと戻す。


「案ずるな、登。なあに、わたしもうまくやってみせるさ。みなも、しばらくは隠密行動となって不便をかけてしまうが、どうにかのりきってほしい。それと、その間、土方君に局長をやってもらう。土方君の指示に従い、といいたいところだが、これまでにも指示には散々従ってくれているな。では、いいなおそう。みな、土方君を助け、支えてやってほしい」


 そういうと、局長は上半身を折り曲げ、深々と頭をさげた。


 みな、なにかあると気づかざるをえない。

 フツーなら、局長代理というべきところである。そして、出頭して戻ってくるまでの間のことを、ここまで心のこもった頼み方をするなんて、まずありえないだろう。


 一方で、局長の副長愛がはかりしれないことをひしひしと感じる。

 マジなシーンなので強調するのもはばかられるか、愛というのはそっち系でないことはいうまでもない。


 ここまでの親友をもたぬおれにとって、うらやましいというよりかはそれを失うことの悲しみのほうがはかりしれず、逆にいなくてよかったとすら思えてくる。



「いやです。絶対にいやです」

「わたしたちとともにいてくれねば、絶対にいやです」


 市村と田村である。かれらは半狂乱になって叫びつつ、局長に体当たりしてから抱きつき、ワンワン泣いてる。


「いってはだめです。ともにいてください」

「いけば、殺されます」


 田村の一語に、ドキリとしたのはいうまでもない。


「おいおい、おまえたち・・・。おおげさなことを申すでない」


 局長は困っているような表情かおで、かれらの頭をなでている。


「やめないか、鉄、銀。局長のめいなのだ。おまえたちも隊士のつもりなら、めいにはしたがわねばならぬ」


 隊士たちのうしろのほうでひっそりと座っている現代っ子バイリンガルの野村が立ち上がり、みなをかきわけまえ膝行してきた。

 諭しつつ、子どもらを局長からひきはがしにかかる。


 そのめっちゃマジな表情かおが似合わなすぎて、思わず笑ってしまいそうになったのを、必死にごまかず。


 ってか、野村は子どもらのお目付け兼まとめ役。子どもらをなだめるのは当然のことなのだ。ってか、たしか、おれもおなじ役回りだった。が、いまは相棒の散歩係で、それもあやうくなっている。


「利三郎のいうとおりだ。鉄、銀。局長のおっしゃることに従うんだ」


 正直、気持ち的には、子どもらが局長の心の琴線に触れるくらいだだをこねまくってくれれば、あるいは決意をくつがえせるかも、なんて期待をしないでもない。


 やはり、もはやそれもかなわぬだろう。ゆえに、ここは局長をわずらわせてはならない。野村とともに、子どもらをなだめることにする。


「鉄、銀。わたしのまえに立ってみせてくれ」


 局長は、野村とおれに目線でさがるよう合図を送ると、子どもらにそう願う。


 双子が、大人用の軍服をかれら用につくりなおした。それが、いまではずいぶんとさまになっている。こうしてみてみると、またしても背がたかくなっていることに気がついた。


 親父よ。牛乳を呑まなくっても、背がのびる人間ひとはのびるんだ。


 双眸を天井へ向け、あの世にいる親父に眼前の事実を報告する。

 

 親父の持論、「牛乳を呑めば呑むほど背がのびる」。


 真っ赤な嘘ではないのだろう。が、おれのしるかぎり、子どもらは牛乳を一度しか呑んだことがないはず。まだ永倉や原田がいたとき、パジャマパーティー中にお菓子の追加を要求しにきたので、俊春がゲットしていた牛乳とチョコレートでホットチョコレート、つまりココアを作ったのだ。それは兎も角、おれがかれらくらいの年齢とし時分ころ、毎日1リットルパックをそのままゴクゴク呑みほしていた。左掌を腰にあてて。

 親父もまた、同様に呑みまくっていたらしい。


 背の高さがイマイチなのは、遺伝にちがいない・・・。


 相馬親子の悲劇の実話はおいておくとして、子どもらは、背だけでなく筋肉もついてきている。

 暇暇に、双子が剣術の稽古をつけたり、筋トレを指導してやっているからだろう。


 会津侯からいただいた金子で、局長がチョイスして買い求めた差料も、ずいぶんとさまになっている。よくよくみれば、二人ともけっこうイケメンにみえなくもない。


 ちょっとやんちゃなイケメン、というところか。いまのやんちゃというのは、本来の意味でのやんちゃである。


 いや、ちょっとまてよ・・・・・・。

 

 もしもこの子らが、背の高いイケメンになってしまったら・・・・・・。しかも、この子らは剣術の修行が大好きである。そこそこの剣士にでもなろうものなら・・・。剣士にかぎらず、なんらかのアスリートであっても同様、女性にモテるだろう。

 それだけではない。もしかすると、年下男子ということで、男性からもモテるかも。

 いやいや。そこはやはり、業務上先輩方から可愛がってもらう後輩、といったところか。

 BL系って意味ではなく・・・。


 ゾッとする。いろんな意味でピンチじゃないか。


 もしかすると、おれはもっと危機感をもたねばならぬのか?

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