表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/1255

調達の算段

 あの夜の事件から二日後、安静の状態からやっと解放された。


 寝間着から着替えようとして、はた、と考える。


 着る物がない、と。


 またしても、副長の着物をだめにしてしまった。今回は、血液の付着どころの話ではない。背中をド派手に斬られてしまった。もはや繕う、などというレベルの問題ではない。


「相馬君、これでなにか見繕ってくれ」


 困っていると、勘定方の岸島きしじまがやってきた。

 胸元に着物を抱え、その着物の上に金子をのせている。


「副長から頼まれた。これは、副長の着物。それから、これは着物代・・・」


 岸島が、部屋のなかに入ってくる。


 そのとき、寝間着姿で室内をうろうろしていた。岸島は、おれと向き合うともっていた着物と金子を手渡す。


 岸島は、生真面目な男である。年のころは、三十代後半くらいであろうか?眼鏡をかけている。それがまたよく似合っている。細面で、体躯もまた細い。一応、得物を帯びてはいるが、とても振りまわすような体力はありそうにない。


 会計面で隊を支える、まさしく、算盤の似合う男である。


「原田先生の奥方に、会ったことは?」


 岸島に問われ、頸を左右に振る。

 何度か話にきいてはいるが、実際に会ったことはない。


「話は通してある。店にゆけば、適当にみつくろってくれるであろう」


 なんと、ひどく断片的な話ではないか。


 岸島は、こちらがある程度理解していると思っている。

 そこで、まだぼーっとした頭を駆使し、記憶の糸をたどってみる。


 原田の奥方・・・。そうだ、たしかまさ、といったはず。


 そこまで思いだすと、するするとでてくる。

 商家の娘。原田のほうが惚れ込んだ。通常は、武士が商家の娘と一緒になるのは大変だ。が、まさの実家は、御家人株をもっていた。ゆえに、原田と一緒になることができた。


 そうか・・・。まさの実家は呉服問屋だったのか・・・。商家、としかウイキペディアにはなかった。それが、呉服問屋だったわけだ。


「わかりました。が、おれは、原田先生の奥方のご実家がどこにあるかはわかりません」

「いいよ、主計さん。連れていってあげても」


 そこに、救いの掌が差し伸べられる。

 市村、田村、玉置、そして、井上の甥っ子の四人。


 市村と泰助が部屋に入ってきた。田村と玉置は、庭でお座りしている相棒をみている。


「そうだな・・・。うどん。うどんでいいよ、主計さん?」

「なにを申しておるのだ、市村?副長から案内あないするよう命じられているはずであろう?それを、たかるとはどういう了見だ」

 岸島が呆れたようにいうと、市村は、あきらかに残念そうな表情を浮かべる。


「ちぇっ!岸島先生、ひどいや」

「ひどいのはどちらだ?相馬君、このいたずら小僧どもには、くれぐれも気をつけたまえ。こいつらが案内あないしてくれる。身ぐるみはがされるまえに、いってきたまえ」


 苦笑とともに与えられたアドバイス。


 さっそく、そのアドバイスに従うことにする。


 いたずら、たかり小僧どもと相棒を従えて・・・。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ