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野村利三郎のキャラ


「利三郎・・・」


 かれの名をつぶやいたのは、おれだけではない。副長と島田の口から、その名がこぼれ落ちる。


 双子には、野村が気がついていることに気がついていたのである。


「いいから、ついてこい。場所をかえたほうがよさそうだ」


 副長は、野村に話をするつもりだったのである。

 局長が敵軍に出頭する際、供をするようにと。


 まさかその話を、書庫から間もなく戻ってくるであろう当人と子どもらのまえでするわけにはゆかぬ。ゆえに、副長は、場所をうつそうというわけなのである。


 ぞろぞろと廊下をあるき、玄関からでて向かったさきは、例の稲荷大明神を祀る祠である。


「ほう、かようなところに祠があったとは・・・」


 島田はしらなかったようである。野村は、子どもらと探険中にみつけたとか。


 さいわい、おれたちの移動に気がついたのは相棒だけでである。隊士たちは、一番おおきな部屋に集まり、落ち着かない状態で体を休めているようだ。


 唯一気がついた相棒は、駆けてきてから当然のごとく、しかも超自然に俊春の脚許にお座りする。


 だれがなんといおうと、犬は餌をやる人に一番なつくんだ。これは、「パブロフの犬」同様、全世界的に時代を問わず当然のことであるし、だれもがしっているあるあるである。


 たとえ当犬とうにんが、「ちゃうちゃう」と異を唱えようとも、この自論を曲げるつもりはない。


 あーあ・・・。だんだん、自分が哀れに思えてくる。


 野村は、不貞腐れて祠のまえに立っている。そのかれに、説明しようと口をひらきかけた副長をおしとどめ、俊冬が事情を説明する。


 最高のプレゼンテーターたる俊冬の説明。またしても、心地よいかれの低い声が、野村だけでなくおれたちの精神こころをも落ち着かせる。


「利三郎。おまえには、かっちゃんに同道してもらいたい。ついててやってほしいんだ」


 説明がおわると、副長が命じるというよりかは依頼する。無意識だったのか意識的たったのか、「かっちゃん」といってしまっている。


 局長といえば命じることになろうが、「かっちゃん」といっているところで、親友の身を案じて託しているようにきこえるであろう。


「ついていったからって、かっちゃんの側にいられるとはかぎらねぇ。別々の牢屋に監禁される可能性のほうが、たかいだろう。それでも、ちかくにだれかがいるってだけで、かっちゃんも安心するはず。案ずるな。ぽちもいってくれる。さらに、主計が途中からくわわることになってる」


 副長が野村にちかづき、かれの肩を掌でポンと叩く。が、かれは視線をあわせることなくうつむき、ただ一つうなずいただけである。


「利三郎、任せられるな?」


 野村は、副長と視線をあわせることなく、かすかにうなずく。


「それと、けっして無茶はするな。おまえらは、敵にとっちゃぁ「憎ぃ新撰組」、「哀れな投降者」だ。そこに、啖呵きって暴れても、やつらにとっちゃぁただの負け犬の遠吠えでしかねぇ。威勢のいい生命いのちしらずってわけだ。その場で斬ってすてられたって、文句はいえねぇ」


 野村は、またかすかにうなずく。


「そのときがきたときに命じるつもりだったが、事前に話をしておくべきだと判断した。再度、確認する。利三郎、任せられるな?」

「承知」


 野村の了承のたった一語は、声をしぼりだしたっぽい。


 自室にもどり、18禁だろうがコンポライアンス違反だろうが、好きなことをしてこいといわれ、去ってゆく野村の背を見送りつつ、副長はちいさくため息をつく。


「利三郎も、かっちゃんのことが大好きでな」


 なんと、野村まで?


「いや、おまえの八郎にたいするのとはちがう大好きさだ」

「ちょっ・・・。副長、どういう意味なのです、それ?それに、わかっていますよ」


 おれがだまっているので、副長がとんでもない誤解をいってくる。


 それにしても、野村まで局長ファンだったとは・・・。そんな素振りをみせたことがなかったので、驚きでしかない。


 ってか、あいつ、上司を尊敬したりするんだ・・・。


 フツーの部下ひとなら、局長を尊敬するって当然のことでも、あいつの基準からすればハードルが高そうなので、なかなかなさそうなのに・・・。


「かれも、人間ひとの機微に敏いですから。精神こころは、わらべのごとく純粋です。わらべが観察眼がするどかったり、感受しやすかったりするのと同様、かれも局長本人やわれわれから、感じとっていたのでしょう」

「すみません、たま。それ、だれの話でしょうか?」

「主計。いまはずっと利三郎の話をしているのだ。ここにきて、突如、大石の話題をもちだすと思うか?助兵衛というところをのぞく、利三郎当人の話にきまっておる」


 俊冬の呆れかえった返答に、副長も島田もふいた。


「かれは、素直ではないだけだ。自身にたいしても他者ひとにたいしても、な」


 俊冬は、ぽつりと付け足す。

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