このあとはどうすりゃいい?
「副長、局長のさきほどの・・・」
「わかってる。おまえにいわれずとも、わかってるんだよ」
かぶせるどころか、いいたいことをいわせてもらえない。
大阪人よりせっかちだ。
「では、なにゆえすねたみたいに・・・」
「すねてねぇ。ああでもしなきゃ、かっちゃんがおさまりがつかねぇだろうが。がんばって演じてるのによ」
もしもし、副長?最後までいわせてくださいよ。
「やはり、副長も気づいて・・・」
「ったりめぇだっ。だいたい、かっちゃんは、昔っから嘘つくのが下手くそなんだよ。くそっ・・・。苦手な嘘をついてまで、おれたちになにもしてもらいたくねぇってこった。助かりたくねぇってことなんだよ」
またしても、最後まで話せなかったのは別にしても、副長のいうことに同意せざるをえないだろう。
もうこれで、おれたちにできることはない。説得も懇願もききいれてもらえないし、秘密裏に動くことだってできない。
チェックメイト。運命を受け入れる局長を、見守るしかないのである。
「副長・・・。あなたは、せいいっぱいできうるかぎりのことをされています。そのことは、永倉先生や原田先生、斎藤先生、島田先生、蟻通先生、ぽちたま。それから、おれもよくわかっています。なにより、局長が一番よく理解されてらっしゃいます。その局長が、それでもなお望まれていらっしゃるのです。けっしてあなたのせいではありません」
そこで一息いれる。酸欠になりそうだ。
「おれのせいです。誠の史実は、おれしかしらない。最初から、局長は生き残ると、みなさんにお話しすればよかったのです。そうですよ。そうしておけばよかったんです。いまさら、ですが」
副長のせいじゃないといいながら、ふと思いついたことを口にだしていた。いいながら、自分の馬鹿正直さというよりかは馬鹿さ加減に、反吐がでそうになった。
局長も副長も蝦夷までいって戦い抜き、終戦後は敵から逃れて大陸に渡るんだ、といえばよかったのだ。そうなれば、局長もその運命に従ってくれたかもしれない。そうなれば、必然的に副長も従うことになる。
それをいうなら、史実を捻じ曲げて伝えさえしていたら、井上も死なずにすんだかもしれない。永倉や原田、斎藤だって、無理矢理はなれずにすんだかもしれない。
なにゆえ、そんな簡単なことを思いつかなかったのか・・・。
「主計、いってるだろう?おまえのせいじゃない」
副長の双眸が、おれのそれを射る。思わず、視線をそむけ、そのままそれをさげて相棒をみてしまう。
相棒は、こちらをみあげている。いまは、いつものようにそっけない態度ではなく、視線をあわせたままそらすこともない。
眼前の副長の双眸とおなじ相棒の双眸が、おれをじっとみつめている。
内心、狼狽してしまった。
これまで、かぞえきれぬほど感じている違和感。あらためて感じると、狼狽してしまう。
「たとえおまえが嘘八百を並べ立てようと、運命をかえることなどできやしねぇ。それは、おまえも頭のどっかでわかってんだろう?たまに指摘されたとおり、おれに覚悟が足りないだけだ。無念だが、かっちゃんをとめることはできねぇ。あとは、おれにできることをやるしかねぇ。ということは、助命嘆願か?主計、きいてるか?」
どうしていいのか、わからなさすぎる。
その為、副長の思いやりの言葉のほとんどを、スルーしてしまっていた。
「申し訳ありません。やはり、おれの配慮が・・・」
「やめやがれっ!それはもういい。それよりも、かっちゃんが投降したあとのことだ。おれは、だれに頭をさげればいい?」
そうだ。ここでうだうだいっていても仕方がない。あとは、外部から圧力なりゆさぶりをかけたりして、できうるかぎりのことをするしかない。
それこそ、藁をもつかむしかない。
しかし、正直なところ、絶望的であることはわかっている。
だが、処刑まで二十日ほどある。それに、こちらには史実に語られていない秘密兵器がある。
それを武器に、どうにか運命を覆すことができないのか。
たとえ1%でも可能性があるのなら、やるべきであろう。
「そうだよな、相棒?」
視線をあわせたまま、相棒に問う。すると、相棒がにんまり笑ったような気がした。
「幕閣、商人をはじめ、有力な人物です。とくに、勝海舟。勝先生には、嘆願書をしたためてもらうことになります。おれがそれを、敵に届けるのです」
そして、おれはその場でとっ捕まり、牢にぶちこまれるのである。




