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決着

 局長の一閃が、俊冬の繰りだす「之定」を右側から襲う。

 あまりの勢いに、「之定」が折れるのではないだろうか?、と冷や冷やしてしまう。


「虎徹」という名のとおり、虎の爪牙の一撃は、リアルな虎のごとしであろう。


「キンッ」


 金属同士のふれあう身の毛のよだつ音が、耳をぶつ。


「おおっ」

「すげぇ」


 またしても副長とかぶってしまった。


 右からの「虎徹」の一撃。それを「之定」はまともに喰らった。が・・・。


「ぐおっ」


 はじきかえされたのは、「虎徹」のほうである。「虎徹」だけではない。遣い手である局長ごと、はじき飛ばしたのである。


 正直、ありえない。

 俊冬、どんだけ力が強いんだ。


 局長の体が、右側へ二、三歩分よろめいた。

 俊冬の突きが、いったん宙で急停止する。こちらも、迷わず左掌が柄からはなれる。

 残る右掌首を返した三打目がはなたれた。


「虎徹」ごとはじかれてよろめき、完璧無防備になった局長に向かって・・・。


「・・・!」

「・・・!」


 みている副長とおれはもちろん、さすがの局長もをみはり、息をするのも忘れるほど唖然としている。

 

 その局長の頸筋ギリのところに、「之定」の切っ先がすいついている。まさしく、すいついているというのがぴったりであろう。あと、ゼロコンマ1ミリ深ければ、咽喉の皮膚を傷つけたかもしれない。


 そして、俊冬の左掌は、地面に倒れそうになっていた局長の左腕をがっしりつかみ、局長の体を支えている。


 このアメージングきわまりない光景は、一生忘れられそうにない。


「ま、まいった・・・」


 局長は、夢からさめたかのようにつぶやく。そこでやっと、「之定」の切っ先が局長の喉元からはなれた。同時に、局長の腕がひっぱられ、崩れそうになっていた体勢が整えられる。


「ご無礼を」


 俊冬はすでに納刀し、「虎徹」を鞘にもどしている局長のまえで片膝ついている。


「なんの。なにが無礼なものか。これまで様々な剣士とやりあってきたが、これほど存分に、愉しくふるえたのははじめてのことだ。俊冬、心から礼を申す」


 局長の笑顔がすがすがしすぎる。月明かりの下、バックからLED強力ライトで照らされているかのようにまぶしい。


 いまの局長には、ある意味背負うべきものがない。宗家や道場主という肩書きや、新撰組の局長としての矜持などである。ゆえに、心ゆくまで愉しめたのであろう。

 

 怪我さえなければ、もっと愉しめたにちがいない。



「かっちゃん、怪我は大丈夫なのか?」

「おうっ、歳。なあに、すこしひきつった感じはあるが、痛みとはちがうゆえ」

「それにしても、さすがは四代目宗家だな・・・」

「局長っ、わたしともぜひ、お願いいたします」


 副長の讃辞にかぶせ、邪魔をするという暴挙にでたのは、それまで一言も発しなかった、それどころか、存在感すらなかった俊春である。


 すこしはなれたところで、かれのみえぬほうのとみえるほうのが、きらきらと輝いているのがはっきりわかる。

 そして、相貌かおを紅潮させているのも。

 

 いまの試合に興奮したのだろう。自分もやりたい・・・。そう願うのは、かれらしいといえばかれらしい。


 しかし、そう切望したとしても、かれがそんなことをいいだすことじたい、めずらしい。たいていは、ぐっとがまんしてそうだから。


「わたしも、やりたいのです」


 さらに願う俊春。まるで、わがままな子どもみたいである。


 その興奮した様子に、なにゆえか心がざわついた。

 

 このきらきら感をどこかでみた、あるいは感じたような気がする。


「いや、ぽち。おまえともやりたいのはやまやまなれど、さすがにもう一試合は・・・」


 局長が、めっちゃ困っている。それはそうだろう。

 やってみたいという気はあっても、さきほどの俊冬との一戦で、精神的にも肉体的にもすべての力を使い果たしているにちがいない。


「この馬鹿者っ!」


 俊冬がいつの間にかちかづいていて、弟の頭を拳でどやしつけた。


「局長を、困らせるものではない」


 兄に頭ごなしに叱られ、俊春はシュン太郎になってしまった。相棒が、「クーン」と鳴きつつ、かれの太腿に鼻をこすって慰めている。


「ならば、近藤勇の弟弟子にして片腕たるおれが、胸をかしてやろうじゃねぇか」


 やはりでました、この男土方歳三!目立ちたがりにして、いっちょかみしたがるイケメンだ。


 副長は、おれを突き飛ばす勢いで双子にちかづこうとした。が、その動きがはたと止まる。


「ど、どうしたんです?」


 艶やかで官能的な唇をかみしめている副長に、おそるおそる尋ねてみる。


「くそったれ。敵の状況の報告をきくってだけだったから、戦えるものをなんにももってきちゃいねぇ」

「はい?その左腰にぶら下がっているものは?おれのには、「兼定」という名刀で、立派な戦えるものにみえるのですが・・・」

「ああ?「兼定こいつ」じゃねぇ。ぽちに致命傷を負わせられるもんだよ」


 意味がまったくわからない。


「兼定」なら、致命傷どころか生命いのちを奪った上に、遺体をミンチにすることだってできそうだ。


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