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ついにやってきました流山 

 京都で生まれ育ったおれには土地勘がないため、いまいちイメージしにくかったが、実際、自分の脚であゆんだり舟にのったりしみて、「ああ、こっちのルートで間違いなかったんだ」と、ムダに感心してしまった。


 いろんな土地を通過し、流山に到着した。


 現在では、近藤勇陣屋跡として観光地の一つとなっているのは、千葉県流山市にある永岡屋敷である。当主の名は、永岡三郎兵衛ながおかさぶろべえ。永岡家は、代々酒造を営んでいる。その永岡屋敷を本陣とし、光明院や流山寺に分宿する。


 永岡家には、幕末には蔵がある。が、いつの時代かに取り壊されてしまい、本陣である場所は、ウィキによると、現代は駐車場になっているらしい。


 ちなみに、永岡家は、新撰組おれたちがおしかけたせいかどうかは不明であるが、この後、酒造業が経営不振となり、秋元あきもと家へひき継がれることとなる。それが、現代までつづく。たしか、2011年だったか、その当時の秋元家の当主が、敷地内で札を発見し、それによってそこが近藤勇の陣屋である「永岡家」宅であることが判明したのである。

 新撰組ファンにとっては、誠にうれしい発見であった。


 以前、局長が流山に伝手があるとか、知り合いがいるとかいっていた。流山は、天領である。幕府のだれかの知り合いの知り合いの、そのまた知り合いの伝手かなにかで、永岡を頼ったのであろう。

 

 ぶっちゃけ、赤の他人にちがいない。永岡本人も、「新撰組」という名くらいしかしらないかもしれない。


 到着したのが暗くなってからということもあり、各人わりあてられた宿所にひきとった。


 はたして、どういうところなのか、墨をぶちまけたような暗さのなかではよくわからない。


 月明かりと星々のまたたきの下、闇にが慣れてくると、田畑がひろがっているな、ということくらいしかわからない。


 朝、双子が、金子家で夜の分まで塩むすびをつくってくれた。晩飯は、それですませる。


 荷車を曳いてきた馬たちの面倒は、安富にかわって双子と久吉と沢がみることになっている。


 永岡家の使用していない物置小屋を、双子がささっと修繕した。元大工の伊藤は、三番組である。斎藤とともに、会津へ先発している。


 が、双子は、やはり大工仕事も完璧である。さすがは、異世界転生でドワーフの家を建てていただけのことはある。


 それに、ここだけの話ではあるが、流山ここに滞在するのもわずか。ここ数日は雨も降りそうにないらしく、気温も暑すぎず寒すぎずである。ゆえに、そこまでガチに厩舎を構える必要もない。


 

 どうせ双子にべったりくっついているだろうが、寝るまえに相棒の様子をみにいくことにする。


 安富についていかなかっただけ、まだ希望はあるといっていいのだろうか・・・。

 

 おれってば、どんどん気弱になってるし、卑屈になってる気がする・・・。


 きたばっかりだし、薄暗いし、金子家とちがって、土蔵やら母屋やらその他の建物が建っていることもあり、仮の厩舎がどこにあるのかさっぱりわからない。

 酒造業ということは、その土蔵が酒蔵で、酒を造っているのだろう。


 篝火一つない永岡家の敷地の奥のほうに、いくつものおおきな影がみえる。もしかすると、奥のその影が酒蔵なのかもしれない。

 と、勝手に想像する。


 うろうろおろおろしていると、建物の間からちいさな影が飛びだしてきた。反射的にあげそうになった悲鳴を、かろうじて喉の奥へと押し戻す。


 鼠である。チューチューいいながら、あっちの建物のほうへ駆けてゆく。ほっと胸を撫でおろしかけたとき、またしてもなにかが飛びだしてきた。つぎは、もっとおおきな四つ脚の影である。


「相棒?」


 雲間から欠けた月があらわれた、その月光の下、相棒が近間に入る手前で、おれを睨みつけている。ってか、今度はなにをそんなに怒っているんだろうか。それとも、以前からの怒りが冷めやらぬってやつなのか。


 おれと視線があうと、相棒は尻をこちらに向け、さっさとあるきだしてしまう。


「ええ?散歩ってことなのか、相棒?」


 だったらリードを、と思いかけてやめた。


 この深夜、田舎道を散歩している人間ひとや犬はいないだろう。まぁ、スケールのでかいドッグランと思えばいっか。


 あいかわらず、テキトーなO型のおれ。


「ちょっ、相棒っ、どこにいくんだよ」


 スルーとかではなく、きっと、おれの声が届いていないのか、言葉がわからないにちがいない。


 すたすたとさきをあるいていってしまう。おいていかれぬよう、必死についてゆくおれ。


 すると、永岡家の門をくぐり、外にでてしまった。どうやら、くるときにつかった川のほうにむかっているようだ。


 五兵衛新田から、チームをつくって別々にやってきたのである。川チームは、五兵衛新田のちかくにある丹後の渡しから舟にのったり、あるいたりして。ちがうチームはひたすらあるきつづけて、というふうに。


 人影をみかけたのは、それからもう間もなくのことである。


 前方に、四つの影がうかがえる。

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