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ちっちゃくても横綱級

「いえ。素人相手に、おくれをとったこいつのほうが悪いのです。わたしは、そうはゆきませんよ」

「ええ?いや、ちょっと・・・」


 もうさっきのはつかえない。それに、この人のほうが強そうだ。


「もうチートなはきかないから、ヤバし、だよな」

「また、たまがアドバイスしてくれないかな?」


 またしても、ドッペルゲンガーたちが騒いでいる。


 似すぎていて、もはや自分ってものがわからない。


「主計の分身がやってくれたらな」

「やってくれるよな。やさしいもん」


 いうなり、俊春が歩をすすめる。いまの『やさしいもん』は、まさしく、おれが大好きな熊本の誇るゆるキャラであり、相棒の唯一苦手な『くOモン』みたいだ。『くOモン』自身はしゃべらないが、お付きのお姉さんが代弁したり、ツイッターでつぶやいたりするときに、語尾にモンをつけるのである。


 ってか、そんなことはどうでもいい。


 おれよりも小柄な俊春がすすみでたことで、もう一人の大関の表情かおが「おれを、馬鹿にしているのか?」か、かれ自身が俊春を馬鹿にしているのか、兎に角、険しくなった。


 新撰組うちのなかで、俊春が一番ちいさいのではないのか?俊冬は、かれより背がたかい。おれも、かれよりたかいと信じている。蟻通など、ほかにも小柄な者はいるが、それらと比較してもちいさい。

 さすがに、子どもらよりかはたかいが、これも時間の問題かもしれない。


 刹那、俊春がこちらを向く。

 ううっ。めっちゃにらんでる。


「ちいさいようですが、手加減は・・・」


 相手がおずおずという。それはそうだ。ぶっ飛ばしていろんなところの骨でも折れまくろうものなら、いやいや、それどころか脳挫傷とかで後遺症がのこったりとかしたら、って想像すると、相手も不安になるのは当然のこと。


「超絶ちいさいってさ」


 ドッペルゲンガーNO.1の俊冬が、わざわざちかづき、ドッペルゲンガーNO.2の俊春の相貌かおをのぞきこんでいう。


「超絶なんていうてへんわ」


 ソッコードッペルゲンガーNO.2の俊春が、関西弁でツッコむ。しかも、掌でNO.1の胸元を叩くというリアクションまで添えて。


 なんてこった。アクセントも完璧だ。


 ふと、相棒をみると、『お笑い ドッペルゲンガーズ』のマネージャーのごとく、満足げな表情かおで幾度もうなずいている。


「ご遠慮なく。思いっきりぶっ飛ばしていただいてけっこうです」


 NO.2俊春が告げる。


 なんか、ビミョーである。かれ自身をぶっ飛ばしてもいいといっているというよりかは、おれ自身をぶっ飛ばしてもいいっていっているような気がしてならない。


「ならば・・・」


 大関は蹲踞ではなく、上半身を折り、片方の拳を軽く地につける。

 

 ぶっ飛ばす気満々みたいである。


 NO.2、すなわち、俊春もまた同様に、上半身を軽く折り、右の拳を軽く地につける。


 俊春のほうは、剣術同様なんの気もはっしていない。が、大関の気は充実し、それがはじけそうになった瞬間、そのままの姿勢から突っ張りをかましてきた。


「ばんっ!」


 走行中の大型車両が、思いっきりなにかを跳ね飛ばしたような音が響き渡る。


 いまやみな、臨時の土俵の周囲にあつまってきている。


 大関の頭上に、「・・・!!」の吹きだしがくっきりと浮かび上がる。


 見物人たちが驚きの声をあげる。俊春は、大関の渾身であろう突っ張りを胸で受け、平然と立っているのである。


 まぁ、全力で突進してくる猪の猛攻を平然と受け止めるのだ。人間ひとの力など、屁でもないだろう。


 俊春の相貌かおに、にんまりと笑みが浮かぶ。

 

 そういえば、兄貴にやられた傷も、ずいぶんと消えている。


 かれの両腕が、ゆっくりあがってゆく。さすがは経験豊富な大関だけはある、なにかを察したのか、感じたのか、じりじりとあとずさりしはじめる。すでに俊春の両腕は、胸の高さまであがっている。


 そのままゆったりとした調子で、平手が大関の胸元に迫る。が、大関は俊春をみつめたまま、まんじりともしない。それこそ、蛇ににらまれた蛙のごとく。


 俊春の両掌が、大関の胸にかるく添えられる。付き合いはじめたばかりで、女の子が男の子に触れてもいいのかどうか、気恥ずかし気に迷っている、そんな初々しい添え方である。


 刹那、大関が吹っ飛んだ。とはいえ、漫画やアニメのように、十メートルも二十メートルもというわけではない。三、四メートル吹っ飛び、尻餅ついたという感じか。


 なに?いまのは掌底なのか?俊春は、まったく力をいれてなかったようにみえたが・・・。


 しばし、なにがおこったか、だれにもわからなかった。しばらくしてからやっと、局長が「勝負あり」の判定をくだす。

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