おわかれパーティー
ネギ焼きは、本来ならお好み焼きにしたかったところを、キャベツがないためにネギ焼きにしたわけである。
ところがどっこい、ネギ焼きもすてたものではない。こんにゃくと軍鶏の鶏皮を甘辛く煮、そこに七味を投入する。本来なら、こんにゃくとすじ肉であるが、そこを鶏皮で代用したわけである。大量のねぎとその甘辛く煮たものを、小麦粉を水で溶いた生地の上にのせ、そのうえにまた生地をかけて焼く。裏表こんがり焼いて、お好みで目玉焼きの上にネギ焼きをのせてもいい。仕上げに、お好み焼きソースとマヨネーズをかけてもいいし、シンプルに醤油でもいい。青のりと削り節をふりかけできあがり。紅ショウガを入れてもいいだろう。
今回は、さっぱりと醤油でいただくことに。
大阪に十三という町がある。そこに、昭和四十年からやっているネギ焼きの店がある。最高にうまい。おれも、何度かいったことがある。お好み焼きに負けぬ、最高のソウルフードである。
ピザは、のばした生地の上にケチャップを薄く塗り、ちかくで採れたきのこ、異国人から入手したというベーコンの塊を薄切りにしてのせる。さらに、そぎ切りにしたチーズをのせ、整備しなおした窯で焼く。
塩パンは焼くだけで、バンズは二つにカット。鶏肉をミンチにしてパテをつくって焼き、薄切りのチーズ、和風の甘辛だれをはさんで出来上がり。
カレーは、チキンカレーに。またしても、軍鶏たちの犠牲に感謝せねばならない。ラーメンの鶏ガラスープにいたるまで、軍鶏たちは大活躍してくれた。ラーメンの具材は、ネギと海苔。シンプルイズベストってやつだ。
おむすびは、塩むすび。村でつくった米で炊いた飯を、隊士たちが握ったのである。わりと器用な隊士たちが、それぞれ独創的な形で握っている。
本来なら、豚まんといいたいところだが、スイーツがわりにあんまんにしてみた。餡は、小豆を砂糖と少量の塩をいれて煮、強力粉から練って発酵させた皮で包む。それを、蒸し器で蒸してできあがり。スイーツ大魔王の島田が、もっと砂糖をと双子に難癖をつけていたが、金子家の砂糖だからムダにはできぬと、双子はうまくかわしていた。
酒は、後援者たちがさし入れてくれた。現代の東京都福生市で造られている酒らしい。
まだ、灘など上方から流通していなかった時分より、玉川(多摩川)の上水を利用して造られている酒で、上方の酒が「くだり酒」と呼ばれるのにたいし、「地廻り」と呼ばれ、親しまれている酒らしい。
すべてのお膳立てが整った。
ゲストは、どのような評価をくだしてくれるのか、どきどきものである。
その夜、はいはいの赤ん坊から、介助がないとあゆめないお年寄りまで、おおくの人が集まってくれた。
みな、箸と皿と湯呑まで持参してくれている。さすがに、タッパーとかファスナー付きのプラスチックバックをもちこんでいるご家庭はなさそうだが。
最初こそ、おむすびをのぞき、生まれてはじめてみる料理に躊躇していたものの、隊士たちが舌鼓をうちだし、双子とおれとで料理の解説をすると、一人、また一人と料理を皿にとって怖る怖る食べはじめた。
だれかが「うまい」とつぶやくと、あっという間にひろがり、二、三分後には大騒ぎになるほどの状況になった。
スマホで写真を撮りつつ、インスタにアップしている人はおらず、ツイッターでつぶやく人もいない。
大人も子どもも、一生懸命食している。
おれたちも交代で食す。追加でつくる手伝いがあるからである。
局長と副長は、金子とともに、そんな村人の間をまわってご機嫌うかがいをしている。
「おいしい。いつも、こんなにおいしいものを食べてるの?」
「いいなぁ・・・。うちはいっつも、汁物に漬物に冷や飯ばかり」
「うちも。これだったら、新撰組に入隊したいよ」
「おまえに刀がふれるかよ。鍬や鋤だってまともにあつかえぬじゃないか」
「村相撲で勝ったからって、いい気になるな」
市村と田村といっしょにいる子どもらが、口喧嘩をはじめたようだ。すぐに市村と田村、それから親たちがとめにはいっている。
「どんな料理でも、笑いながら喰ったほうがおいしいんだ。喧嘩しながらとか泣きながらとか、文句をいいながら喰えば、どんな料理でもまずいよ」
いっちょまえに、市村が諭している。双子のどちらかのうけうりであろう。
「村相撲?」
それをきいていた局長が、村人の一人に問う。すると、村人はピザののびたチーズを指でからめながら応じる。
「農作業の合間の娯楽でございます。春は豊穣を祈って、秋は豊穣を祝って、近隣の村々の代表で相撲をとるのです」
「そのくらいしか娯楽はございませんので」
村人の言葉を、金子が補足する。




