パーティーの準備
ふと視線を感じるので、そちらを向いてみた。厨のすぐ外で、相棒がお座りし、おれたちを、具体的にはおれをにらんでる。
たしかに、おれをにらんでるよな?
気まずい。気まずすぎる。このあと、深夜の散歩にゆくべきなのか?
「よし、やろう。これは、腕のふるい甲斐がありそうだ。主計、献立は任せられるか?作り方をざっと教えてくれれば、われらで再現しよう。これまでのようにな」
「もちろんです、たま。うわー。愉しみだな」
「おぬしは、喰うこととなるとムダに積極的だな」
「失礼な、ぽち。おれは、あなた方の才能を伸ばしてあげたいのです。なぁ相棒?」
都合のいい解釈を、相棒にふってみる。
おれたち三人の視線のなか、相棒は副長ばりに眉間に皺をよせ、口唇をあげると牙をむきだしにするではないか。
なに?はやく牙で喰いちぎりたいほど、立食パーティーが愉しみだってことなのか?
ポジティブに受け取っておくことにしよう。
「いいです。なにもいわないでください」
真実は、しらないほうがいい場合もある。相棒の代弁者たる俊春に、そう釘をさすのを忘れない。
傷ついたような表情の俊春を横目に、さっそくレシピを考えはじめてみる。
なんか「信長Oシェフ」の主人公になったような気分である。この時代にある食材で、レシピを考えなければならないのである。
で、結局、ピザ、ネギ焼き、ラーメン、あんまん、カレーライス、フライドチキン、ハンバーガー、パン、おむすび、とあいなった。
誤解のないようにいうと、おれが喰いたいものリストではない。あくまでも、がんばれば入手可能な食材にもとづいて、である。
おむすびは、異国の料理が口に合わない人向けである。
どっからどうみても、立食パーティーというよりかは、ショッピングモールのフードコート的なレシピである。
ちなみに、ピザ生地とパンは、先日の女児の誘拐犯たちがねぐらにしていた炭焼きの窯を改良して焼くことにする。
双子と金子は、朝一番から食材集めに奔走した。小麦とか酵母とかチーズとかバターとか、双子の秘密の伝手をつかって、異国の船より買い付けたらしい。おおくはないが、トマトケチャップの元祖的なものも入手できたとか。ラーメン用のかんすい、フライドチキンの衣と油、カレーライスに使う香辛料もまた、いろんな伝手でそろった。
材料がそろってからが大変である。みなで手分けし、強力粉からパンやピザ生地、あんまんの皮をこね、カレーやラーメンのだしを煮詰めたり、窯を整備したり、ひたすら米を炊いたり、香辛料を砕いたりすったり、軍鶏をさばいたり、ネギを永遠に刻んだり・・・。
新撰組は全員、いますぐにでもお婿にいけそうな勢いで、料理のスキルが身についただろう。
ピザ生地づくりは、以前、イタ飯を喰いにいったさいに、そこでパフォーマンスで生地を伸ばしていたのを思いだしつつ、双子に告げる。
すると、あっという間にそのとおりに指先でくるくるまわしつつ、薄く、丸く、伸ばすではないか。
なんてこった。イタ飯のシェフよりうまい。これだったら、本場イタリアでおこなわれる世界ピザ職人選手権大会で優勝できるかも、っていうくらい均一に、もちろん、穴をあけずにのばしてゆく。
市村や田村だけでなく、村の子どもたちも集まっている。二人は、村の子どもたちとここ数日で仲良くなったらしい。
子どもらもまた、挑戦。いろんな形と分厚さのピザ生地ができあがる。
パンは、塩パン、すなわち食事パンと、ハンバーガー用のバンズをつくった。こちらも、成形、酵母は麹をつかって発酵させてから、窯で焼く。
一次発酵、二次発酵で、ひとりでに膨らんでゆくのをみ、局長や隊士たちは驚いていた。
ふと、明治期に斎藤が横浜のパン屋に転がり込んで働くというストーリーの「一O食卓」という少女漫画を思いだしてしまう。
ラーメンの麺を打つ。だしは鶏ガラ。くず野菜などと煮、濃厚なスープに仕上げる。それはそのままカレーにも活用し、そこにスパイスを投入してカレーに仕上げてゆく。赤ワイン、ソースも忘れない。
フライドチキンの衣も、何種類ものスパイスをきかせた逸品。油は、この時代、まだ高価な菜種油を使用。『カーネル・サOダース』に負けぬ、衣はサックサク、なかはジューシーなフライドチキンに仕上がるはず。
ちなみに、かれは、1890年、いまよりもうすこし後に、アメリカのインディアナ州で誕生する。じつは、それがかれの本名ではない。『カーネル』は、ケンタッキー州に貢献した人に与えられる「ケンタッキー・カーネル」の称号のことである。




