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削蹄

 翌日、朝食後に削蹄がはじまった。


 まずは牛から。島田を中心に、原田の組下である「進Oの巨人組」、つまり、ガタイのいい連中が、牛を取り囲む。双子が声をかけると、牛も馬もおとなしくなるのだが、今回、削蹄がほぼはじめてという、とんでもない状況である。驚いて、いつなんどき暴れだすかもしれない。その為の要員である。


 牛の蹄は二つに分かれている。厳密には、うしろに副蹄が二つある。主蹄は、人間でいう中指と人差し指にあたる。つまり、牛はあの巨体を指でささえているのである。それをかんがえたら驚異的だ。


 それに比較すれば、先夜の双子の親指二本での倒立など、たいしたことないって思える。


 削蹄をおこなうことで、体重を均一にできるそうだ。それにともない、健康的にすごせるというわけである。おこなわないと、牛自身、体重のかかりかたが悪くなり、脚だけでなくいろんなところを痛めてしまう。よって、乳牛、肉牛と、環境はいろいろあれど、すくなくとも年に二回はおこなったほうがいいらしい。


 双子は、こぶりの鉈とやすり、やっとこのようなものを、村をまわって集めてきた。


 まずは前脚から。これは、牛も馬もおなじらしい。


 鉈でおおまかに蹄を切り落としたのち、やっとこで容赦なく切り取ってゆく。


「うわっ、痛そう」


 子どもらだけでなく、大人も自分の痛みのように表情かおを歪めている。


人間ひとでいう爪なのだ。爪を切っても痛くなかろう?」


 俊冬の説明に、みな、なるほどと納得する。


 やっとこで切ったのち、やすりで形を整えてゆく。


 おおっ!ちょうどいい具合に、蹄が二つにわかれている。これぞ偶蹄類。これで一脚完了。

 四本あるわけだから、まだ三本ある。


 双子は、あっというまに牛たちの蹄をリフレッシュしてしまった。


 それから、馬たちへ。新撰組うちの馬たちも含めておこなう。


 こちらは、おこなう脚を両太腿にはさみ、鉈で粗削りしたのち、角度をかんがえながら削ってゆく。それから、やすりで形を整え、終了。本来なら、蹄鉄をはずし、それをつけなおすところまで必要だが、いまこの時代には、蹄鉄それじたいメジャーではない。なぜなら、アスファルトなど、蹄を摩耗したり痛めたりするものがないからである。くわえて、在来馬の蹄は、西洋の馬よりはるかに分厚い。ゆえに、蹄鉄はつけずともいいというわけである。


 こちらも、双子は一心不乱に削りつづける。

 おれたちは、指示された馬をつれていったり、戻したりする。


 すべておわったのは、宵闇がこそっとせまりつつある時間である。


 双子は、すぐに夕餉の支度へ。

 

 誠に、働き者である。しかも、なにをやらせてもプロ級。核戦争や世界の終末で、人類が滅亡にちかい状態に陥り、双子と三人きりになったとしても、生き残れるにちがいない。そして、生き残っているであろう人間ひとを求めて旅をするのである。


 いや、ちょっとまてよ。そういうシチュエーションになれば、おれはモブキャラっぽく、冒頭でとんでもない死に方をしてしまうのだろうか。



 それは兎も角、明後日の転陣をまえに、明日の夜はささやかながら宴を催すという。金子家はもちろんのこと、五兵衛新田の人々にも、なにかしら提供したい。お礼とお詫びを兼ねて・・・。


 もちろん、つくるのは双子で、新撰組おれたち全員でヘルプにまわるという。


 なんか大変そうだが、愉しそうでもある。


「立食パーティー?」


 夕食後、金子家の厨で後片付けを手伝った。そのとき、ふと思いついていってみた。

 

 すっかりグルメリポーター化、ってか、ただの喰いしん坊化してしまったおれの脳内に、神の啓示がくだったのである。


 眼前で、双子が相貌かおをみあわせている。同時に叫んだ、和製英語のパーティーが、ちゃんと英語の『Party』の発音になっていたような気がしたのは、気のせいであろうか。


「ええ。日本の宴というのは、一人一人御膳に饗された食事をいただくものですが、西洋では、大皿に盛られたいろんな料理を、自分で好きなものを好きなだけとって喰ったりするんです。それが立食となると、立ったままいろんな人と話をしながら喰うってことになります。これだと、食器、卓、椅子が最低限揃えるだけですみます。さらに面白いのは、ポットラックパーティーで、宴を主催した人が料理や呑みものを準備するのではなく、参加者が一品準備して持ち寄るのです。まぁそれは今回はできませんが・・・」

「なるほど。おおきめの皿、一人一人に割り当てるちいさめの皿と箸があればいいわけだな」

「ちいさめの皿と箸は、各自もってきてもらってもいいのではないでしょうか、たま」

「では、老若男女、呑み喰いできる献立のほうがいいわけだな」

「おっしゃるとおりです、ぽち。そうだ。せっかくです。形式が西洋式なんです。レシピ、献立も和だけでなく洋中もまぜてみてはいかがでしょうか?」


 いかん。おれの食へのこだわりは、どんどん悪魔的になってゆく。これも、双子という古今無双の料理人がいるからだ。 


 ってか、他人ひとのせいにするのもどうかと思うが。


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