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副長の将来(さき)・・・

「それで?おれの意思をしって、どうするつもりなんだ、たま?」


 散歩係をクビになってからの光明をみいだしている間に、副長が俊冬に尋ねている。


 木箱に浅く座って脚を組む姿は、「イケメンモデル土方歳三」である。

 その隣に座っている、島田のことは・・・。ふれないでおこう。


「さきほど蟻通先生に申しましたとおり、ご命令さえあれば、われらはいますぐにでも香川隊に参り・・・。すぐに大軍監のかわりはまいりましょうが、しばしのときは稼げます」


 そこで、かれは口をつぐむ。


 つまり、暗殺しまくるということか。


「あなたのご命令があれば・・・」


 ぽつりと強調する。


「無論、うまくやります。敵は、暗殺されたとはけっしてもらしませぬ。士気にかかわりますゆえ。局長の耳朶には、敵の動きがおかしいと入れればよいだけのこと。もっとも、ばれるでしょうが。なれど、殺ってしまえば、もうどうにもできませぬ。局長には、腹をくくっていただき、ともに会津にまいっていただくしかありませぬ。まさか、敵の動きがおかしいことに、局長が投降したり、ましてや腹をきるなどというのもおかしな話ですゆえ」


 そこでまただまりこむ。このおいしすぎるストーリーについて、副長に考慮させるかのように。


「さきほど、わたしが島田先生に主計の正体を告げたのは、あなたが、いまのわたしのにのらぬことがわかっているからです」


 副長が、はじかれたように俊冬をみる。


 どういうことなんだ?せっかくのうまいを提案しておきながら、それが却下されることを最初はなからわかっていると?

 おれの正体がかかわるってところも、よくわからない。


「失礼ながら、あなたもまた、局長と同様に死地を求めてらっしゃるように感じられるのです。否、厳密には、局長をとめる術がなく、みすみす死なせてしまう真実を受け、すべての責をまっとうされてからあとを追おうとかんがえていらっしゃる・・・」


 図星なのであろう。なぜなら、俊冬をにらみつける副長のに、これまでみたことも感じたこともないほどの深い深い悲しみと憎しみの色が、濃くでているからである。


「主計。副長の将来さきをしっているおぬしだ。いまのをきいて、どう思った?」


 副長とにらみあいながら、俊冬はおれにふってくる。


 逡巡してしまう。副長は、いっさい自分の将来さきについて尋ねてきたことがない。局長とはちがい、そのとき(・・・・)がまださきということもあるので、表情かおをよまれるようなこともなかったはず。


 いまここで、副長の将来さきについて語るべきなのか?語ったところで、局長の生命いのちが助かることへ結びつくのか。


 とてもじゃないが、そうはかんがえられない。それどころか、副長にも将来さきに伝えられ、そうと信じられている運命さだめを肯定し、覚悟させることになるのではないか・・・。


 なにゆえ、このような流れになるのだ? 

 やはり、俊冬の真意がわからない。


「副長。いまの主計の沈黙と表情かおで、ご自身の将来さきをよんでいただけたかと」


 くそっ!またしても、よまれてしまった。

 俊冬は、おれの回答などどうでもよかったわけだ。言葉にだす必要はない。なぜなら、おれは、世界一表情(かお)にでやすい男だから。


 副長は、おれの表情かおをよめばいいだけである。


「まさか、副長も?」


 自分の運命さだめをしった副長より、島田のほうがはるかに動揺している。


「殺っても、死ななそうだよな」


 そこではじめて、副長の表情かおがやわらいだ。眉間の縦皺も、子どもらを叱り飛ばすときくらいの刻み具合である。


「い、いえ。そういう意味では・・・」


 島田は、すっかり恐縮してしまっている。


「おれのは、よみにくいんじゃなかたのか、俊冬・・?」

「ええ。あなたの心中は、じつによみにくい。ですが、よまずとも感じられるのです」


 どういう意味なんだろう?副長の心中、思考を感じられる?

 俊冬、なんか謎だらけだぞ。


「さっきの答えだがな。かっちゃんと別れても、おれは戦いつづける。一人になろうとも、やれるところまでやってやる。これは、かっちゃんの遺志を継いでとか、武士さむらいや幕臣としての矜持や意地なんかとは関係ねぇ。ただ、やりたいからやる。戦いたいから、戦う。それ以上でも以下でもねぇ。それから、ぽちたま。おれはおまえらに、暗殺やら闇討ちやらを命じるつもりはねぇ。いいな?勝手な真似はするんじゃねぇぞ」


 いっきに告げると、副長はゆっくり立ち上がる。それから、緩慢な動作であゆみだし、相棒の側で立ち止まるときれいな掌で頭をなでる。


「たま、殴ってすまなかった」


 つぶやくように謝罪すると、ゆっくりとした足取りで畜舎の入り口へと去っていった。



「承知」


 その副長の背に、双子の了承の言葉がぶつかり地に落ちた。

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