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奇襲攻撃

 敵は、おれたちが気がついたことに気がついた。


 複数の気が、路地の奥から急速にちかづいてくる。


「はやくゆけっ、利三郎!」

 副長の怒鳴り声とともに、子どもらが弾かれたように駆けだす。


 子どもらですら、殺到してくる殺気を感じ取ったのである。


「すぐに助けを呼んでまいります」


 野村が、怒鳴ると同時に駆けだす。


「主計っ、おれはいい。餓鬼どもを、餓鬼どもが優先だ。兼定にも命じてくれ。兼定、これを遣え」


 副長は、一歩まえの位置で背を向け囁く。太刀を右掌で、脇差を左掌で、それぞれ同時に鞘から抜き放つ。


 まるで、二刀流である。そして、左掌の脇差を、そのまま後手にぽんと放る。


 おれの左うしろから、相棒が飛びだし軽くジャンプする。着地したときには、副長の脇差を口に咥えている。


「相棒、副長とおれになにかあったら、子どもらと利三郎を護れ、いいな?」


 副長からおれ自身へのめいはスルーし、相棒にだけそれを強要する。


 相棒が、こちらを振り返る。当然のことながら、文句をいうはずはない。


 すぐにその視線は、眼前に迫りくる気に戻される。


「之定」を、鞘から開放する。


「きえー」


 夜目に慣れているとはいえ、路地の暗がりからの攻撃。かなりのスピードを伴っているということもあり、ついてゆけない。


 気合の叫びが、夜の静寂のなか、耳に痛いほど響き渡る。


 猿叫・・・。示現流の気合の雄叫び・・・。


「副長っ!」


 反射的に飛びだす。


 相手の初太刀は、すでに暗がりから放たれている。だが、副長は、その刃の動きを追えていない。おれも、得物を抜いたばかり。

 体勢すら整っていない。


 もはや、いかなる攻撃も間に合わない。


 左掌を伸ばし、副長の襟首を掴む。それから、そのまま思いっきり引き寄せる。


 同時に、副長のいた位置にまで飛びだす。


 視界の隅で、副長が尻餅をつくような格好で倒れるのが映る。


 わずかな月明かりの下、太刀の切っ先が頭上から落ちてくるのが感じられる。

 勢いは、止まらない。なので、そのまま身を低くし、まえへと転がる。


 抜き放った「之定」は、刃先を外へ向け、自分を傷つけないようにするのが精一杯である。


 背中に、焼けるような痛みがはしる。その痛みが、逆に冷静にしてくれる。


 嘘のように、様子がみえる。すぐまえに、脚が二本。そして、血刀。


 転がりながら、右掌の得物を逆刃のままで薙ぎ払う。稼動域を超えた急な動きに、掌首の筋が悲鳴を上げる。


 眼前の二本の脚が、宙を飛ぶ。おれの逆刃が、その脚を襲う。が、わずかに距離が足りず、宙を舞う脚先、草履の先端部分を薙いだだけである。それでも、肉と骨を断った感触が・・・。


 どこを斬ったかまでは、わからないが。


 耳に、相棒の唸り声と悲鳴が飛び込んでくる。


「副長っ!主計っ!」、と呼ぶ野村の声も・・・。


 気がつくと、副長の顔が真上にある。その横には、相棒の顔も。


「しっかりしろ、主計っ!傷は浅いぞ」

 副長が怒鳴っている。


 その台詞は、戦争映画などで脇役が死ぬときによくつかわれるな、とボーっとした頭で考える。


 み下ろす二つの顔が、なぜか重なる。


 視界が、真っ暗になる。


 幕がおろされたかのよう・・・。


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