表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

618/1255

マッスル・ペインは早くくる?

「主計さん。そういうの、チートっていうんだよね?」

「はあああ?これのどこがチートっていうんだ、鉄?」


 以前にも言及したと思うが、人間ひとって、真実を指摘されるとキレる。


「だってほら。ぽちたま先生と、ぜんぜんちがうよ。それに、はやさもちがうし」

「なにいってるんだ、銀。はやければいいってものじゃない。こういうのは、自分のペースで一回一回、きちんとこなすのがいいんだ」

「ホワット・ザ・ヘル!」


 かれらが同時に叫ぶ。


 だめだ・・・。なにゆえ、新撰組でスラングが横行しているのだ?しかも、自然な感じで発音もいい。

 

 正直、手に負えそうにない・・・。


「主計、主計。このくらい、ちゃっちゃとやらぬか」

「たま。このくらいって・・・。超人、いいや仙人、いいや神仏悪魔と鬼レベルのあなた方には、このくらいかもしれませんが、そこらにいるお犬様の散歩係にとっては、とんでもなくきついんですよ」


 双子は腹筋を堪能したのか、つぎなるトレーニングにうつろうとしている。


「ったく。ひと寝入りしたら、笑うのがつらいほどの筋肉痛になってますよ」


『おれは若いんだから、筋肉痛はすぐにでるんだよ』と、さりげなくアピールしておく。

 なーんて、根拠のない説に、都合のいいときだけすがるおれ。


 筋肉痛がくるのがおそいのは、加齢によるもの、というのはちがうらしい。若くても、おくれることはある。

 その理由わけは、運動の激しさらしい。激しければ激しいほど、はやいのだとか。へたをすれば、運動中にくる、なんてこともありえる。


「ならば、ほかの箇所も痛くなれば、ちょうどよいではないか」

「いえ。そんな問題じゃないんですよ、たま」

「さて。おつぎは、足腰を鍛える」


 さすがは「ゴーイングマイウエイ」俊冬。こちらの訴えをきいちゃいない。


 俊冬が合図を送ると、俊春が両脚を肩幅にひらいてエアーチェアの姿勢をとる。その肩に、俊冬が身軽にのってみせる。もちろん、土台である俊春のエアーチェアは、崩れるどころか揺らぐことすらない。


「エアーチェアって・・・」


 もはや渋々である。おなじようにエアーチェアをするタイミングで、俊冬が島田に、おれの肩にのるように頼む。


「ちょっ、だめです。これだけでも数分できるかどうかって状態です。島田先生にのってもらうなんて、絶対に無理です」

「島田先生は、身軽でらっしゃるぞ」

「なにをボケてるんです、たまっ!島田先生の身軽さを問うているのではありません。おれの足腰の弱さのことをいっているんです」


 怒鳴り返しただけで、太腿とふくらはぎが悲鳴を上げている。はやくも、ぷるぷるしはじめている。


「ならば、太腿の上に・・・」

「だから、無理なんですってば」


 再度怒鳴ってから、しまったと口を閉じてしまう。


 そうだった。四つ脚の妊婦・・さんを、不安にさせてしまう。


「まったく。主計、精神力がなさすぎであるぞ」

「はい?あなたがたと同様にできるわけないですよ」


 そうきり返したものの、たしかに俊冬のいう通りである。島田がのるというのは兎も角、数分でギブアップするには『精神力弱っ!』であろう。


 がんばってみた。想像していた時間の三倍は耐えた。


 もっとも、双子はたがいに肩の上にのりあい、それぞれ30分ずつほどやってきりあげていた。最後まで、ぴくりともゆるぎなくエアーチェアをつづけられるなんて、『どんだけ脚が強いんだ』と、感心をとおりこして呆れてしまう。


 おつぎは倒立。おれも、一応はできる。しかし、ここでも双子の倒立は尋常ではない。両親指二本で倒立するばかりか、その足の裏の上にどちらかがのり、その上で腕立て伏せのごとく腕を曲げるのである。曲げて伸ばしてを永遠につづける。親指、腕そのものが強い、だけで片付けられるものではない。

 くわえて、足の裏にのるほうは、バランス感覚もすごいってことになる。さらには、倒立をする側がぜったいにもちこたえられるという、信頼関係がなければならない。


 それにしても、これだけ常人ばなれしたトレーニングの数々をこなしているというのに、双子の体がマッチョじゃないというのも、不可思議な話であろう。


「筋肉がつきにくい、性質たちなのであろうな。それに、食べるものにも気をつけておるゆえ」


 俊冬が疑問に答えてくれた。


『ハードゲイナー』という言葉がある。誤解のないようにいうと、よんで字のごとしではない。

 

 筋トレをしても、筋肉がつきにくい人のことである。

 逆三角形に憧れているとか、マッチョを目指しているとかで、スポーツジムでトレーニングをし、プロテインを摂取したり、たゆまぬ努力をつづけているにもかかわらず、その成果が視覚できずに「細っ!」っていわれてしまう。そういう人のことを示す言葉である。

 まぁ、そういう体質なのかもしれないが、筋肉をつけたい人にとっては、気の毒以外のなにものでもないだろう。


 双子が、「ハードゲイナー」かどうかは別にして、筋肉がつかないよう食事にも気をつけているというのが、さすがでかる。


 ってか、食事するんだ、と単純に驚いてしまう。このまえ、俊冬が『霞を食べる』みたいなことをいっていたが、双子だったら、それもありかなって納得してしまっていた。


「われらにとっては、肉も筋肉も動くのに邪魔なだけであるからな」


 たしかに、俊冬のいうとおりである。


「本来なら、このあとに組手、それから素振りをするのだが・・・。さすがに、それらは気の性質たちがこれまでとはかわってしまう。花子は無論のこと、ほかの牛馬たちも怯えてしまうゆえ、今宵はこれまでということにしておこう」

「いえ、たま。これだけやったら、充分すぎますよ。この上、まだやるのでしたら、夜が明けてしまいます。ってか、寝る暇ないじゃないですか」


 このルーティンなら、確実に夜が明ける。しかも、かれらは朝餉の準備もある。


 眠る暇など、あろうはずもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ